2022年12月9日 大豆灌水支援システムの一般利用開始 サービスの利用 収量向上に期待

農研機構は、大豆が乾燥ストレスを被る時期を推定しアラートを発出するWebシステム「大豆灌水支援システム」を開発しており、今年4月からこの成果を含むWebサービスを民間企業が提供している。このサービスの利用により、大豆の乾燥ストレスが容易に把握でき、アラートにしたがって適期灌水を行うことで、大豆の収量向上が期待できる。

 

収量の停滞で伸び悩む 国内の大豆生産量  

日本の大豆の消費量は長期的に減少傾向だったが、健康への意識の高まり等を背景として、2014年を境に復調し、2020年現在では食品用としての大豆の消費量は105万トン/年となっている。これに対し、国内の大豆生産量は伸び悩んでおり、その要因として収量の停滞があげられている。こうした需給の問題を解決するためには、大豆の収量を増加させることが重要な課題である。

日本の大豆の多くは、水はけの悪い水田転換畑に栽培されていることから、湿害対策に大きな関心が払われてきた。一方で、雨の少ない時期には乾燥ストレスを軽減することも重要だが、生産者は湿害のおそれから大豆への灌水には消極的だった。また、乾燥ストレスを被る時期は気象、土壌、栽培方法に大きく左右されるため、生産者が乾燥ストレスを見極め、適期灌水を行うことは容易ではない。灌水適期が容易に分かる技術ができれば、生産者は湿害の心配をせずに灌水ができるようになり、灌水の実施率は高まり、大豆の安定多収に貢献できると考えられる。

 

ほ場の水収支から土壌水分の変化をリアルタイムで推定するシステム

農研機構では、様々な研究の中で蓄積してきた気象や土壌のデータベースを活用し、これらに生産者が持っている栽培法などの営農情報のデータを加えることで、ほ場の水収支から土壌水分の変化をリアルタイムで推定するアルゴリズム(計算方法)「大豆灌水支援システム」を作成した。

また、Webサービスを開発する株式会社ビジョンテックとの共同研究により、2019年にこのアルゴリズムを実行するWebサービスの試行版を開発。2019~2020年の2年間実施した秋田県の生産者が管理する水田転換畑でこの試行版を活用した実証試験等では、灌水によって収量が10%増加した。2021年には、Webベンダーが容易に活用できるWeb APIを開発している。

2022年9月現在、この「大豆灌水支援システム」は、2社との利用許諾契約を交わしている。このうち、今年度から株式会社ビジョンテックの運営するサービス「栽培管理支援情報サービス SAKUMO」によって一般の生産者が利用できるようになった。さらに、株式会社オプティムが実装に向け、生産者が参画した実証をスタートさせている。

 

推定の精度と収量に対する効果 システムが土壌水分を推定する原理

「大豆灌水支援システム」では、生産者がWebサービスに栽培法(苗立ち日等)などの営農情報のデータを加えると、乾燥ストレスの指標値を得ることができる。従来の手法のように、ほ場への土壌水分センサーの設置等を行う必要はなく、気象情報には予報値も含まれているため、9日先までの乾燥ストレスの推定値を知ることもできる。

また、このシステムは土壌水分を精度よく推定でき、灌水が必要な時期を実用上問題ない精度で知ることができる。秋田県大仙市で、このシステムがアラートを発出したタイミングで灌水を行うという条件で5年間の実証試験を複数の試験地で実施したところ、大豆の収量が平均10%増加することが示された。

また、このシステムは農業データ連携基盤「WAGRI」に置かれており、ほ場の水収支と土壌情報をもとに、ほ場の土壌水分を推定する。水収支の推定に必要な気象情報は、農研機構が管理する1kmメッシュ農業気象情報から得たデータが用いられる。土壌水分の推定に必要な土壌情報は、農研機構が管理する日本土壌インベントリー等を参照することにより求めることができる。

 

適期灌水の実施による収量増が見込める

現在、日本の大豆作における灌水の実施面積割合はわずかである。灌水の実施面積割合が小さい背景には、生産者にとって乾燥ストレスの見極めが難しく、灌水適期が見過ごされがちであるという問題があった。

このシステムの普及により、乾燥ストレスが見える化され、乾燥ストレスへの対処の重要性について生産者により深く理解してもらうことができ、適期灌水の実施による収量増が見込める。

研究グループでは今後、システムの普及拡大のため、多くの地域での実証や、それに伴うシステムの改良を行い、さらに精度が高く使いやすいシステムへと改良していくとしている。また、Webベンダーへの更なるサービス展開の働きかけなどにより、システムの普及を進めていく方針だ。

 


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