2022年12月19日 夜間の「カモ被害」、実態把握へ カモがハス田のレンコン食べる様子を初確認

農研機構は、野生のカモ等が、水が張られたハス田の泥中にあるレンコンを食べる様子の確認に初めて成功した。ハス田に試験的にレンコンを埋め、夜間のカモ等の行動を動画撮影した結果、一部のカモ等(マガモ、オオバン)が倒立したりして、水面下約40cmの深さまで採食することが分かった。マガモでは、途中、脚で泥を掘る行動も見られた。この成果は、鳥類による全国の農作物被害額の約1割を占める霞ケ浦周辺でのレンコン被害(年間約3億円)に対し、実態を正しく理解した上で効果的な被害対策を講じていくために欠かせない知見となる。

 

レンコン栽培に大きな影響を 与えている「カモ被害」

鳥類による農作物被害は、2020年度の農林水産省の調査では、全国で約30.2億円が報告されている。その内訳をみると、最多のカラス類(約13.8億円、46%)に次いで、カモ類(約5.1億円、17%)が2番目に多い。カモ類による被害のうち、38%にあたる約2億円を茨城県におけるレンコン被害が占めている。

露地栽培のレンコンは、8月頃から年末をピークに翌年3月頃まで少しずつ収穫されるが、この期間は越冬カモ類が日本に渡ってくる時期と重なる。全国のレンコン出荷量の半分以上を生産する茨城県のハス田は、通年で水が張られ、多数のカモ類が越冬する霞ケ浦に隣接して広がっているため、カモによる被害が他の産地に比べて甚大となっている。

収穫したレンコンに少しでも食べ傷があると、そこから変色したり、傷から入った泥がレンコンの穴を通じて前後の節へも浸透して出荷困難になったりすることから、大きな損害となる。こうした被害は、夜間のハス田でカモの群れが見られることなどから「カモ被害」として広く認識されている。しかし、泥中にあるレンコンを夜間にどの種がどのように食害しているかはこれまで確認されていなかった。対策として、多くのハス田に防鳥網が設置されているが、野鳥が防鳥網に絡まって羅網死する事例が多発し問題となっている。

そのため、今回の研究では、食害を引き起こすカモ等の種類や採食行動を明らかにすることで、効果的な被害対策の助けとなる科学的知見を得ることを目的として、ハス田での試験と夜間の行動監察が行われた。

 

夜間の撮影でマガモとオオバンが 泥中のレンコンを食べるのを確認

研究では、レンコン農家の協力の下、2021年2~3月に、収穫後のハス田1ほ場(茨城県土浦市)において、泥中や水面、畦上にレンコンを設置し、自動撮影カメラを用いて夜間の様子を撮影した。設置したレンコンは翌朝回収し、食害の様子を確認した。

その結果、泥中のレンコンを食べたのはマガモとオオバンの2種で、頭を水中に浸したり倒立を繰り返してレンコンを食べる様子が観察された。マガモが脚で泥を掘る動作や、オオバンが潜水してレンコンを食べる行動も見られた。

レンコンを設置する深さを変えながら試験を16回行った結果、浅い位置のレンコンほど食害を受けやすいことが分かった。水面下20cmまでのレンコンは完食、40cmまでは食べられにくくなるもののマガモの泥掘りやオオバンの潜水で採食可能で、40cmより深いものは採食されなかった。霞ケ浦周辺では水堀りによってレンコンの収穫が行われ、収穫期もハス田に水が張られているためカモ等が飛来・採食しやすく、被害を受けやすいと考えられる。

さらに、マガモとオオバン以外にも、5種のカモが撮影され、採食行動は種によって異なっていることがわかった。これら5種は撮影された個体数が少なかったため、さらに調査が必要だが、水面や畦上に設置したレンコンを食べる行動が一部の種で観察されたものの、いずれも泥中のレンコンを食べる様子は確認されなかった。収穫後のハス田には、収穫残さのレンコンが水面に浮いていたり、畦に積まれていたりする場合があること、またハス田には他にもウキクサ類、プランクトンといったカモの餌となる生物が豊富に存在することから、泥中のレンコンは食害しないカモにとっても、ハス田が好適な採食場所となっていると考えられる。

 

より効果的な対策手法の開発に期待

今回、レンコンの食害を引き起こすカモ等の種類やその採食行動の様子が初めて明らかになった。加えて、レンコンを食害しないカモもハス田を生息場所としていることが分かってきた。従来用いられている防鳥網は野生の生息環境に影響することから、今回得られた知見を踏まえたより効果的な対策手法の開発が望まれる。

研究グループでは今後、レンコン被害の軽減と鳥類の生息環境の保全を両立できる技術の確立に向け、現場の生産者や自治体などと協力し、実証試験を進めていくこととしている。


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