文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP、坪井 裕所長)が公表した「科学技術の状況に係る総合的意識調査」によると、わが国大学等の研究者らは、基盤的研究費や研究時間といった大学・公的研究機関の研究環境に対して、大きな不満を抱えていることが明らかとなった。また、「人事凍結により若手ポストの拡大は見込めない。教授が退職しても後任を採用できない」と、実績を積んだ若手研究者への任期なしポスト拡充に向けた組織の取組に対しても危機感を感じていることがあらためて浮き彫りとなった。
機関からの配分「無いに等しい」
NISTEPでは、一昨年1月に閣議決定した第5期科学技術基本計画期間中のわが国科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため、産学官の一線級の研究者や有識者約2800名を対象とした5年間の継続的な意識調査を2016年度から行っている。
2回目となる今回の調査では、大学・公的研究機関での研究活動の基盤(研究環境等)に対する危機感が前年度から引き続き示された。また、大学や公的研究機関の研究環境に関する三つの質問で「著しく不十分」との認識が示された。ひとつは、研究開発で基盤的研究費(内部研究費等)の状況で、外部資金を獲得しないと研究を行うことが困難であるとの声とともに、「機関からの配分は無いに等しい。研究成果の公開(論文投稿料等)だけで、内部研究費がなくなった」といった懸念が表明された。
また、研究時間に関しても厳しい意見が聞かれた。大学改革、中期計画等の策定により、研究以外の業務エフォートが増加していることや、人員削減に伴う事務職員の不足により、一人あたりの事務作業や仕事量が増加していることが研究活動時間を確保する上での障害になっている。
さらに、研究活動を円滑に行うためのリサーチ・アドミニストレーター(URA)に関しては、雇用財源等の関係で数が減少していることや、制度が十分に機能していないといた指摘とともに、専門人材の育成が十分でないことへの不満の声が聞かれた。
実績を積んだ若手研究者への任期なしポスト拡充に向けた組織の取組に関しても、不十分との強い認識が、前回調査から継続している。人員削減が先行しており、若手が実績を積んでも、空きポストがなければ任期終了後に離職しなければならないといった意見や、人事凍結により若手ポストの拡大が見込めないとの回答が寄せられた。
出始めた交付金削減の影響
基礎研究については①イノベーションの源として基礎研究の多様性は確保されているのか、②わが国基礎研究から国際的に突出した成果が生み出されているか、③わが国の研究開発の成果は、イノベーションに十分つながっているのか―の三つの問いで、前回2016年度調査と比べ厳しい反応が返ってきた。
基礎研究の多様性確保では、選択と集中が過度に進んでいることや、研究内容の偏りに伴う多様性の低下、さらに出口指向が高まり、応用研究、実用性重視の研究が増えていることから、多様な研究が行われていないとの回答がみられた。
国際的に突出した成果創出では、欧米をはじめ中国やインドなど諸外国と比べたプレゼンスの低下をはじめ、有名雑誌に掲載されるわが国論文数の減少、国際会議の主要メンバーから日本人が減少しているとの認識が示された。また、運営費交付金の削減に伴う研究費の削減で、研究時間の確保が困難になったことの影響が出始めていると感じているという。
わが国研究成果がイノベーションにつながっているのかとの問いに対しては、「基礎研究から応用、実用化への橋渡しがうまく機能していない」「他国と比べた制約の多さや自由度の低さ、システムの煩雑さがイノベーションに必要なダイナミクスを失わせている」といった意見が聞かれた。さらに、〝目利き〟が政府側にいないことを問題視する回答者もみられ、科学技術政策関係者の専門性の向上を求めた。