温暖化が進行したときに日本の内陸部で、現在よりも災害を伴うような顕著な大雪現象である豪雪が高頻度に現れ、豪雪による降雪量も増大する可能性があることが、気象庁気象研究所などが行った実験調査により明らかとなった。これまでにない多数の地球温暖化気候シミュレーション実験の結果を解析して確認したもの。この結果は8月31日付けで国際的な科学誌「Climatic Change」に掲載された。
文科省「気候変動リスク情報創生プログラム」のもと、気象研究所、東京大学、京都大学、国立環境研究所、筑波大学、海洋研究開発機構が共同で、これまでにない多数の地球温暖化気候シミュレーション実験を行い、実験結果をとりまとめた「地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)」を作成した。
d4PDFでは、シミュレーションのサンプル数が少ない従来の温暖化データベースでは求めることのできなかった、豪雨や豪雪、台風などの極端現象の発生頻度や強度の将来的な変化について、精度良く求めることが可能。現在、国内の政府各機関や関連団体で、d4PDFを用いた温暖化対策の検討が精力的に進められている。
従来の温暖化研究では、温暖化の進行とともに総降雪量が減少することは確認されてこなかった。一方、豪雪については、大気中の水蒸気量とともに増大するのか、温暖化による気温上昇により減少するのか、既存の気候シミュレーションデータベースでは精度の良い結論を導き出すのは困難だった。
この問題を解決するために、今回、気象庁気象研究所環境・応用気象研究部の川瀬宏明研究官を中心とする研究グループがd4PDFを活用して、日本及び周辺域における将来の日別降雪量の将来変化を高精度で求めた。
その結果、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第五次評価報告書で最も温顔化が進むことを想定しているシナリオでの21世紀末に相当する気候状態では、本州の内陸部で十年に一度しか発生しない豪雪が現在より高頻度で現れ、豪雪に伴う降雪量も増加する可能性が高いことが明らかとなった。
地球温暖化が進行した状態では日本域の降雪は全体的には減少するが、気温が零度以下となる本州や北海道の内陸部では大気中の水蒸気の増加などの理由で、たまに起こる極端な降雪が増大する。
中部日本内陸部での現在気候における日別降雪量の頻度分布と、将来気候を比較すると、現在気候で60ミリメートル以上(降水換算、およそ十年に一度頻度)の降雪量の多い部分では統計的に有意に発生頻度が増大しているのが分かった。
現在・将来ともに、極端な降雪が起きる際には冬型の気圧配置が強まり、日本海に風の収束帯(JPCZ)ができる。将来のJPCZは現在よりも強化される傾向が見られ、豪雪頻度の増加と対応している。
北陸地方の沿岸部では、温暖化による気温上昇のために雪ではなく雨として降るが、
温暖化が進んでも気温が零度以下となる内陸部や山岳部では降雪となることから、依然として、豪雪への備えが必要であると考えられる。
今回の研究成果は、防災や水資源管理など社会性の高いテーマにも関連していることから学術的に高い評価が得られている。
また、気象研などでは、科学的に興味深い研究成果であるとともに、日本国内における将来の防災対策・適応計画を立案する上で考慮されるべき結果であると考え、調査結果をまとめ、「Climatic Change」に発表。論文が示した将来の豪雪に関する見通しが、国民生活の安全性を高める施策決定に役立つことが期待される。