国土交通省は、関係省庁(金融庁、中小企業庁、公正取引委員会)と連携して、車体整備事業者による適切な価格交渉を促進するための施策を講じることを3月4日に発表した。
我が国のクルマ社会を支える自動車整備業では、今後も優秀な整備士を確保・育成していく必要があるが、令和5年、公正取引委員会が実施した特別調査において労務費の転嫁率が低い受注者の割合が最も高い業種であったように、人材確保・育成の原資を確保していくことが求められている。
中でも、事故車の修理を行う「車体整備業」は、新技術への対応など様々な課題に直面しているが、その一つとして、労務費の転嫁を含む「損害保険会社との価格交渉」が課題となっている。
国交省では、関係省庁と連携して、事故車修理の価格交渉に関する情報提供窓口の設置、損害保険会社との対話等を進めてきたが、これに加えて適切な価格請求を促進するために車体整備事業者が取り組むべき事項を指針として取りまとめた。
事故車の保険修理の価格交渉に関する車体整備事業者からの情報提供窓口を設置し、損害保険会社等との交渉の実態・課題等を把握するとともに、関係省庁と連携して、適切な保険金支払い等の観点から損害保険会社の話も聴きながら、車体整備事業者への丁寧な説明・交渉を促す。
また、車体整備事業者が、損害保険会社等に対して、透明性・公平性を前提としつつ、労務費の転嫁等の価格交渉を行うため、同事業者が取り組むべき内容を「指針」として策定した。
さらに、価格決定に用いられる「標準作業時間」について、国交省が第三者的立場から今後調査する。
車体整備事業者による適切な価格交渉を促進するための指針
今回策定した指針では、損害保険会社との価格交渉について、車体整備事業者が取り組むべき事項として、①自社の責任と考えによる見積りの作成、②人件費等の上昇も考慮した工賃単価の提案、③作業時間の実態を踏まえた価格請求、④見積書、作業記録簿等の標準様式の使用、⑤代車費用の支払いに関する考え方の理解、⑥透明性・公平性が疑われないような請求・説明、⑦損害保険会社との交渉における留意点、⑧協定に時間を要する場合には依頼者に判断を仰ぐ、⑨依頼者に対する適切な情報提供‐を定めている
。
国交省では、関係団体の協力を得ながら、車体整備事業者によるこれらの取組状況を確認。また、関係省庁と連携して車体整備事業者による価格交渉の実態・課題等を継続的に把握する。
なお、(一社)日本損害保険協会においても「修理工賃単価に関する対話・協議の在り方にかかるガイドライン」を策定した。
車体整備事業者が取り組むべき事項
1.自社の責任と考えによる見積の作成
・見積の作成は、損害保険会社に委ねず、自社の責任で行うこと
2.人件費等の上昇も考慮した工賃単価の提案
・工賃単価は、消費者物価のみならず人件費等の上昇も考慮して提案すること
3.作業時間の実態を踏まえた価格請求
・車両の状態が「指数」(標準的な作業時間)の前提と異なるなど、特殊事情がある場合は、個別交渉すること
4.見積書、作業記録簿等の標準様式の使用
・修理内容、費用を明確化し、透明性をもって請求すること
―産業廃棄物処理費などかかった費用をなかったことにしない
―不合理な総額割引は見積の妥当性を失わせるおそれがある
5.代車費用の支払いに関する考え方の理解
・対物賠償責任保険における代車費用の支払いの考え方を理解すること(無過失でなくても過失割合に応じて代車費用が支払われる約款が多い等)
6.透明性・公平性が疑われないような請求・説明
・価格の透明性・公平性を説明できるように、作業と請求を行うこと(恣意的に理由なく保険修理と、これ以外で価格を異ならせない等)
7.損害保険会社との交渉における留意点
・損害保険会社と見解が相違する場合には、丁寧に説明し、損保会社に対しても丁寧な説明を求め、双方が建設的に対話すること
・保険の仕組や賠償の考え方について説明を受け、理解すること
・「アジャスターや担当拠点には決定権がない」「地域相場で決まっている」等、不合理な説明で交渉が進まない場合には、必要に応じて、国交省の窓口に情報提供すること
8.協定に時間を要する場合には依頼者に判断を仰ぐ
・1週間を超えて見解が相違する場合、依頼者に対して損害保険会社が提示する保険金の範囲では修理できない旨説明すること
9.依頼者に対する適切な情報提供
・求められれば、依頼者に対して作業内容と見積を丁寧に説明すること(保険金による修理は「現状復旧」であること等)