国立がん研究センターと名古屋大学の研究チームは28日、卵巣がんが腹膜に転移するメカニズムを解明したと発表した。がん細胞が分泌する小さなカプセル状の物質に、特定の遺伝子が含まれていると、腹膜を壊して転移が促されるという。今回の成果は、英科学誌のネイチャーコミュニケーションズで掲載される。
卵巣がんの患者数は、年間およそ1万人。自覚症状があまりないため、患者の約半数は、がんが腹膜まで広がった状態で見つかる。リンパ節へ転移しているケースや隣接する臓器へ浸潤しているケースでは、手術による根治が望めるものの、症状が腹膜まで達しているケースでは治療が困難になる。実際、がん細胞が卵巣のみにとどまっている場合の5年生存率は90%、これに対し腹膜などに転移した場合は確率が40%まで落ちる。
このため、研究チームは、がん細胞から分泌される微小な「エクソソーム」と呼ばれるカプセルに注目。マウスを使った実験によって、「MMP1」という遺伝子を多く含んでいるエクソソームが、腹膜の細胞に触れることで穴が開き、その部分から転移していくことを確認した。
がん細胞のエクソソームは、患者の腹水にも含まれており、経過観察の有効な手掛かりになることが期待されている。がん研が卵巣がん患者の腹水を調べたところ、「MMP1」の多いエクソソームを持っている割合は27%だった。さらに、症状がステージ1の早期患者74人を調べたところ、エクソソーム内の「MMP1」が少ない人は、10年後も全員生存していたのに対し、「MMP1」が多かった人は、再発などで約7年のうちにおよそ半数の人が亡くなっていた。
卵巣がんの診療において、腹水の採取はがん細胞の有無を調べるために必ず行われる項目でもある。研究チームは、これにエクソソームの解析が加われば、早期卵巣がんの患者の予後を予測できると指摘。その後の経過観察を行ううえで重要な情報になり得るとした。また、腹水中にある「MMP1」を含むエクソソームは、化学療法を行うことで低下がみられるとして、化学療法の効果の判定に活用できる可能性もあると主張している。
がんセンター中央病院の加藤友康婦人腫瘍科長は、「腹膜にばらまかれたようにがんの転移が広がる腹膜播種の制御が卵巣がん治療の要と言えるが、これまでこの発生ルートは不明で、有効な治療法もなかった。今回の研究成果は、腹膜播種の制御に向け突破口を開いたものと期待している」と語っている。