2018年4月25日 医薬業界に特化した自動翻訳システム NICTがバイオ・医薬品企業と実用性を検証

情報通信研究機構(NICT)は、国内外で展開しているバイオ・医薬品企業、アストラゼネカ(株)(本社:大阪市北区、ステファン・ヴォックスストラム代表取締役)との間で、自動翻訳システムの共同研究に関する実施契約を締結した。今後、両者で医薬業界に特化した自動翻訳システムの実用性を検証する。

ここ数年、人工知能(AI)を活用した翻訳サービスの導入が各業界で検討されており、特許分野など、一部の専門領域ではAIによる自動翻訳が実用化されている。一方、製薬業界では、こうした技術は開発途上だが、多くの企業で国内と海外の国とが同時に治験を実施する国際共同治験が主流となってきていることから、迅速かつ適切な翻訳へのニーズが高まっている。

こうした背景を踏まえ、両者は、NICTの最先端のAI翻訳エンジン「TexTra」を用いて、医薬分野に特化した精度の高い自動翻訳システムを開発するという共同開発に合意した。

NICTでは、AI技術で多用される深い階層構造を持つニューラルネットワークを用いた自動翻訳技術(ニューラル翻訳)の研究開発を推進し、研究成果である高精度自動翻訳エンジンをTexTraと名付けて公開している。公開サイト「みんなの自動翻訳@TexTra」(https://mt-auto-minhon-mlt.ucri.jgn-x.jp/)では、コピー・ペーストしたり、サイト上の翻訳エディタを利用したり、ワードやPPTのファイルを直接翻訳したり、API(Application Programming Interface)を介してプログラムから利用したり、さまざまな方法で翻訳精度を試すことができる。

アストラゼネカ研究開発本部長の谷口忠明氏は、今回の共同開発について「最先端の素晴らしい技術を持つNICTとAI翻訳を共同開発できることを非常に嬉しく思います。医薬品開発に対応できるAI翻訳エンジンは、グローバル医薬品開発プロセスに革新的な変化とベネフィットをもたらすことでしょう」と意義を強調。その上で「当社は、今後もこのような日本の素晴らしい技術やサイエンスとのコラボレーションを積極的に実施し、革新的な医薬品開発へ生かしていく所存です」と意気込みを語った。

NICTは総務省とともに『翻訳バンク』()の運用を行っており、翻訳データを集積して日本の翻訳技術の多分野化・高精度化に取り組んでいる。NICTにとって、今回の契約は製薬企業との初の取り組みとなる。

アストラゼネカは、革新的な医薬品を一日も早く患者に届けることを使命として、現在を60超える開発プロジェクトを国内で実施しており、うち8割以上が国際共同治験となっている。アストラゼネカは、NICT に自社の対訳データを提供し、医薬分野に特化した翻訳システムの実用に向けて共同で検証を行うとともに、カスタマイズされた翻訳システムの使用権利を得る。

医薬分野に特化した精度の高い自動翻訳システムが開発されることで、翻訳作業が効率化し、新薬をはじめとする薬事申請をより迅速に行うことが可能となる。製薬業界全体が目指している〝一日でも早く患者さんへ薬剤を届ける〟のさらなる実現にあたり、今回のアストラゼネカとNICTの共同研究は、より良い医療への大きな貢献の一つになると期待されている。

※ 翻訳バンク:ニューラル翻訳による自動翻訳の精度向上のためには、ニューラルネットワークのアルゴリズムの改良が有効であることに加えて、翻訳データ量の影響が大きいのでさまざまな分野の翻訳データの確保が重要となります。NICTは総務省と共に「翻訳バンク」の運用を進めながらさらなる翻訳データを集積し、日本の翻訳技術の多分野化・高精度化に取り組んでいる。


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