日本医師会の釜萢敏常任理事は4月22日の定例記者会見で、楽天が法人向けに発売したPCR検査キット(※現在は販売見合わせ中)について、「(医療現場に)混乱をきたす可能性がある」と強い懸念を表明した。
焦点となっている検査キットは、楽天が出資するジェネシスヘルスケア株式会社が、医療法人社団創世会と連携して開発したもの。申し込みは100キットから可能で、価格は1キット当たり税込で1万4900円。手始めに20日から、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県で法人向けに提供を始めており、5月以降には提供地域の拡大も予定している。
対象は20歳以上。厚生労働省が新型コロナウイルス感染症について、相談・受診すべき目安として挙げている特定の症状は出ていないものの、不安を感じている人に対して企業が実施することを想定している。あくまで新型コロナウイルスに特徴的なRNA配列が検出されるかどうかを調べるものであり、陽性や陰性など医療的診断を下すものではないとした。検査試料の採取は,本人が採取棒(綿棒)により鼻咽頭から採取する。最大でおよそ3日に検査結果が分かるという。
釜萢常任理事はこの検査キット対し、「大変危惧の念を抱いている」と発言。具体的には、
(1)検体採取の際、周囲に感染が拡大する危険性がある、
(2)検体採取は正確に行われる必要があり、不正確であれば結果は信用できない、
(3)偽陰性で職場に出た場合、周囲に感染を拡大させる、
(4)結果を医療機関に持って来られても対応は困難である
‐といった点を問題視していると説明した。そのうえで、結果の取り扱いについては、個人情報保護の観点からも問題があると主張。また、同日開催された政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議においても、同検査キットに対し問題意識が示されたことを紹介し、企業が同キットを購入し検査を実施した場合は、混乱をきたす可能性があることを改めて強調した。
なお、検査キットの注意事項には、「本検査キットを用いたリスク判定は、いかなる意味でも診断や医行為を行うものではありません」という一文があるが、医療機関での評価は非常に微妙な扱いになることが予想されている。実際、釜萢常任理事は「検査で仮に『陽性』と出て、それをもって医療機関に来られることがあった場合、それをどう扱うか、医療機関としても非常に戸惑うだろう」と答えている。
日本医師会の横倉義武会長は、「この検査に頼りすぎることは非常に危険だろう」と指摘。「PCR検査を十分に受けられないという今の検査体制を早く改善してほしい」と訴えた。そのうえで「医師が必要と認めた場合、すぐに検査できる体制を作り上げていかなければいけない。その意味でも、このPCR検査の自己判定キットというのは、大きな一石を投じた」と述べた。