2017年1月6日 北極海の海底が深刻な状況 海洋酸性化が長期化・広域化の可能性

東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科の川合美千代准教授らは、国立研究開発法人海洋研究開発機構北極環境変動総合研究センターの菊地 隆センター長代理、西野茂人主任技術研究員らとともに、2年間にわたり北極チャクチ海の調査を行い、底生生物の豊富な海底付近の海洋酸性化が深刻な状況にあることを報告した。

人間の活動で放出された二酸化炭素が海水に溶け込み、海洋酸性化が全地球的に進行している。酸性化が進むと海水の炭酸カルシウム飽和度が低下、生物は殻や骨格を作りにくくなり、飽和度が低下して「未飽和」の状態に達すると、炭酸カルシウムが海水に溶けだすようになる。

冷たくて塩分の低い北極海は、酸性化の影響を特に受けやすい海として知られている。底生生物の多い浅海の海底では、有機物の呼吸分解によって放出される二酸化炭素が多く、もともと海水の炭酸カルシウム飽和度が低いのが特徴。酸性化の進行で炭酸カルシム未飽和に達しやすい状況にある。

太平洋側北極海に位置するチャクチ海は、平均水深が50メートルほどで、夏季には炭酸カルシウム未飽和に達していることが観測されていた。春から夏にかけて有機物が分解し、低層の二酸化炭素が高くなるため、特に炭酸カルシウム飽和度が低い時期にあたる。しかし、夏以外の季節は、船舶による観測が困難なため、明らかになっていなかった。

研究グループは、チャクチ海底層に各種のセンサーを設置し、海洋地球研究船「みらい」と北海道大学の練習船「おしょろ丸」による観測を行ったところ、2012年秋には炭酸カルシウム未飽和な低層付近で観測されたが、2013年初夏には全く見られなかった。海水の各種化学成分の分析結果から、チャクチ海底層水の炭酸カルシウム飽和度を決めるのは、水温・塩分と、海水中での有機物の生成・分解(光合成と呼吸)であることが分かった。研究グループでは、この結果から、水温・塩分・溶存酸素濃度(光合成・呼吸の指標)から炭酸カルシウム飽和度を推定する計算式を導いた。

 

炭酸カルシウムの「未飽和」継続を示唆

2012年から2014年の2年間にわたる取得データを分析したところ、海水の炭酸カルシウム飽和度は、夏季だけでなく、冬季にも低く、1年のうち7.5カ月以上も炭酸カルシウムの一種のアラゴナイトに対して未飽和という結果を得た。また、計算の結果、人為的な二酸化炭素がなかったころに比べて未飽和の時期が倍以上に拡大していること、将来はさらに長期間にわたり未飽和が継続することを示した。

すでに長期にわたって未飽和にもかかわらず、観測を行った測点では、貝類が豊富に生息していた。これらの生物が何らかの保護機構を持っているか、未飽和海域や未飽和な時期を避けて生息していることなどが考えられる。

しかし、今後酸性化がさらに進行すると、保護機能が働きにくくなり、生息しづらい状況になるだろうと予想される。

研究グループは、今後もこの海域に注目し、調査を継続する必要があるとの認識を示し、特に、生物の応答や適応など、これまで自然界では観測されていないことについて、現地調査によって明らかになると期待している。


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