東京都市大学情報工学部知能情報工学科の渡部和雄教授らは、出版物の利用促進を目的に、媒体別(紙と電子)での消費者の使い分け状況を明らかにし、出版社や書店に向けた利用促進策を提案した。ここ数年、電子出版物の販売額が増加する一方、紙出版物は大きく減少しており、出版社や書店には、紙・電子出版物の共存に向けた消費者への利用促進策の提案が求められている。今回、紙・電子出版物に対する消費者(20~60歳代)の意識や行動について5年にわたり調査・分析(毎年1回、各500名~1000名)した結果、年代や目的、シーンによって特徴が表れることが明らかになった。これにより、両者の共存に向け、電子出版物には価格の引き下げやコミック類のラインナップを充実させること、文字の読みやすさなどを改善すること、また、紙出版物にはターゲット層を明確にし、装丁を改善することなどの利用促進策を提案できるようになった。
今後は、出版社や書店との連携を図り、消費者が紙・電子出版物の利用場面やジャンルごとに出版物を上手に使い分け、出版物の利用が一層促進されることが期待される。この分析成果は一般社団法人日本印刷学会の2019年「論文賞」を受賞した。
出版科学研究所によれば、紙出版市場は2019年まで15年連続で縮小する一方、電子出版市場は伸びている。現在は、消費者も出版社も紙出版物と電子出版物の共存形態を模索しているところ。そこで、消費者の出版物利用状況を知り、紙出版物と電子出版物をうまく使い分けてもらうことなどにより出版物の利用促進策を検討することを目的として、今回の研究を実施した。
特に紙出版物のみの利用者と紙出版物と電子出版物を併用する者の意識や行動の違いに焦点を当ててアンケートを作成し、回答を分析。その結果、「じっくり=紙媒体、ながら=電子」という分析結果とともに、次の五つの事実が明らかになった=表参照=。
①50~60歳代は、紙のみ利用者が併用者より多い一方で、20歳代~40歳代は電子出版物併用者が紙のみ利用者より多いことが明らかになった。パソコンやインターネットの普及率が50%を超えた2000年前後に30歳以下だった世代はICT(情報通信技術)に慣れ親しんでおり、電子出版物のインターネットでの購入やスマートフォンでの購読に抵抗がないためと考えられる。
また、②20~30歳代では、3~4割が紙出版物も電子出版物も週1日未満の利用に留まっていることも明らかとなった。この調査結果は、若年層はスマートフォンの動画やゲーム、SNSなど、他の関心事も多いことも一因とみられる。
さらに、③紙のみ利用者は紙出版物の満足度が高いこともわかったが、このことが、紙のみ利用者が電子出版物を利用しない理由の一つと考えられる。このほか、④併用者は電子出版物の長所(場所を取らない、何千冊も持ち運べる、買いやすいなど)を好意的にみている。一方、紙のみ利用者は電子出版物の短所(目が疲れやすい、コンテンツが少ないなど)を厳しくとらえている。⑤消費者は電子出版物の低価格化、品揃えの充実、サービスの継続などを求めていることも、今回の調査分析であらためて浮き彫りとなった。