2022年7月7日 再生可能資源で道路を丈夫に でんぷんから作ったアスファルト改質剤

農研機構は、でんぷんを原料としたアスファルト改質剤「C‐AG」を開発した。C‐AGは、アスファルト中で繊維状に分散し、アスファルトの耐流動性を向上させ、道路寿命を長くする効果を発揮する。さらに、従来のアスファルト改質剤と比べ、改質アスファルト製造や道路施工に関連するエネルギー消費量が低く、温室効果ガスの排出量抑制が期待できる。

 

ポリマー改質アスファルトの利用と課題

日本の舗装道路は、主にアスファルト舗装である。アスファルトは、温度の上昇とともに柔らかくなる特性があり、真夏の路面温度である60度に達すると流動性を示す。このため、真夏に道路を多くの車が走行すると「わだち掘れ」と呼ばれる凹凸ができ、道路が傷んでしまう。

真夏でもアスファルトの硬さを保ち、わだち掘れを抑制するため、アスファルトに石油系ポリマーを加えたポリマー改質アスファルトが利用されている。しかし、ポリマー改質アスファルトは、製造から道路施工の工程で180度前後の高温を長時間保持する必要があるため、エネルギーコストが高く、CO2を含む多量の温室効果ガスを排出することや、作業環境の過酷さが問題になっている。そのため、アスファルトの粘弾性を改善しつつ、製造・施工で高温条件が必要ないアスファルト改質剤の開発が求められている。

研究グループではこれまで、でんぷんから得られる1.5‐アンヒドログルシトールと脂肪酸を原料としたゲル化剤C‐AGを開発してきた。このゲル化剤は、多種類の有機溶媒に容易に溶け、溶液の粘度を増したり、固化したりすることができる。さらに、用途開発を進める中で、アスファルトにも簡単に溶け、分散することが分かった。

そこで、今回、「アスファルトを増粘、ゲル化してアスファルトの硬さ・柔らかさを調整することができれば、アスファルト改質剤として利用できるのではないか」と考えの下、研究が進められた。

 

C‐AG改質アスファルトの調製 耐流動性の向上を実証

研究では、アスファルトとC‐AGを入れた容器を130度のオーブンに30分入れた後、30秒程度かき混ぜたものを室温に12時間置いて調製を行った。

C‐AG改質アスファルトを原子間力顕微鏡で観察した結果、アスファルトのみの場合と異なり、繊維状の構造体がアスファルト中に分散していることが分かった。

次に、C‐AG改質アスファルトの耐流動性を評価するため、ガラス玉を使ったアスファルト舗装の模擬的な簡易実験が行われた。舗装道路は、強度を持たせるための骨材と、骨材を接着するためのアスファルトの混合物で作られている。実験では、骨材の代わりに骨材と同じ成分でできているガラス玉をC‐AG改質アスファルトでピラミッド型に接着し、真夏の路面温度である60度に熱したホットプレート上に置き、ピラミッド型を保つことができるかどうかが確認された。その結果、無添加アスファルトで接着したピラミッドは、徐々にアスファルトが柔らかくなり、40分後に壊れた。一方、C‐AG改質アスファルトで接着したピラミッドは形を保つことができ、耐流動性が向上していることが実証された。また、C‐AG改質アスファルトの60度における耐流動性は、従来のポリマー改質アスファルトと同程度であることが分かった。

 

道路の長寿命化への貢献に期待

アスファルトに比べて耐流動性が向上したC‐AG改質アスファルトを道路舗装に利用すると、道路が丈夫になり、真夏でもわだち掘れができにくくなるため、道路の長寿命化への貢献が期待される。

また、同様の目的で用いられてきたポリマー改質アスファルトは、製造に180度前後の高温が必要だったが、C‐AG改質アスファルトは130度以下で製造できることが分かった。この低温化により、ポリマー改質アスファルトを使用した場合と比べて、CO2で15~40%程度、温室効果ガスの排出量削減や、エネルギー消費量を60~80%に抑制できるとともに、道路舗装に関わる作業者の作業環境の改善にも寄与できると考えられる。

さらに、この改質剤は、食用に向かない粗でんぷんを原料にできるため、廃棄でんぷんの削減や資源の有効活用にも役立つ。

研究グループでは、今後も原料から製品に至る様々なプロセスでエコフレンドリーな技術を取り入れ、持続可能な社会実現に貢献するアスファルト改質剤G‐AGの開発を進めていく予定だ。


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