2023年3月10日 公益目的事業比率基準の影響 横市大准教授らが費用配分の影響を初解明 

一般財団法人といった政府等から認定を得た公益財団法人は課税対象外となる収益があるなど優遇を受ける一方で、財団の設立目的以外の事業比率が5割を超えてはならないというルールが存在する。

横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科の黒木 淳准教授と同研究科の夏吉裕貴さん(博士後期課程3年)は、日本国内で初めて、公益社団・財団法人に対する公益目的事業比率基準の存在と公益法人のガバナンスの状態が、公益法人の費用配分行動に与える影響について解明した。公益目的事業比率の50%基準に抵触する恐れのある公益法人では、収益事業費用ではなく公益目的事業費用に多めに配分する可能性が高くなることを明らかにした。また、10.8%の公益法人が、課税所得を圧縮するために、収益事業費用に対して公益目的事業費用から多めに配分している可能性を示した。公益目的事業比率の50%基準に抵触する恐れのある公益法人では、理事会の規模が大きいほど、公益目的事業費用への配分傾向が強くなることもわかった。

この研究結果は、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律に基づく公益目的事業比率基準は、公益法人が収益事業ではなく、公益目的事業に対する活動に焦点を当てることを促している可能性を示唆した。また、公益法人の利害関係者にとって公益法人の理事会を拡大することで、公益目的事業比率基準への対応強化を図ることができる可能性を提示している。

この研究の発見事項に基づけば、日本国内にある9640の公益法人(2021年12月1日現在)について、非営利組織の本来のミッションや目的に沿う活動に懸念が生じた場合には、費用に関する規制がひとつの有効な方策であると考えられる。また、研究結果は、公益法人以外の非営利組織でも公益活動の増進に資する費用に注目する必要性を示唆している。

2008年度の公益法人制度改革から約10年が経過し、制度改革後、わが国の公益法人は、〝公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであること〟(認定法)という目的から、公益法人の活動全体における公益目的事業比率を「50%以上」とする基準が設けられている。旧民法では主務官庁から許可を得ることで、公益性と税制上の優遇措置を合わせて法人格に付与されているが、制度改革後は法人格と公益認定が切り離されることになった。

認定法・指針では、公益事業の費用が総費用の50%を下回った場合、公益認定を取り消す可能性があることを示している。また、公益認定の取消は公益目的事業に用いる財産を消失させる可能性があり、重いペナルティが課されることになる。

この背景には、非営利組織の活動に対して国民が持つ不信感について、公益認定を受ける非営利組織(公益法人)の主な活動が公益目的であることを国民に示し、理解を得ることが必要だったと考えられる。

このような公益目的に対する活動を重視し、費用配分に閾値を設けた基準で規制を設けていることは、わが国の非営利組織では公益法人特有で、国際的にみても日本特有の制度のひとつとなっている。

企業で何らかの閾値が設けられることで費用配分が変わることはすでに多くの研究で指摘されているが、非営利組織に対して設けられた閾値が起因となって費用配分が変わるかどうかに焦点をおく研究はいまだ少ないこと、また日本の経験が諸外国の非営利組織制度設計に役立つのではないかと考えたことが、今回の研究の着想となった。

黒木准教授らが1万2027サンプル・年度(4763の公益法人から抽出)のパネルデータを用いて重回帰分析を行った結果、公益目的事業比率が50%に抵触し、認定が取り消される恐れがある公益法人ほど、収益事業から公益目的事業に費用配分を行うことが明らかになった。一方で、約11%の法人が公益目的事業よりも収益事業に優先して費用配分することも観察された。さらに、もし公益認定が取り消された場合、公益目的事業のための資産を喪失する可能性があるため、公益法人の理事会の規模が大きいほど、このような恐れから公益目的事業への費用配分が促されることを示した。


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