2016年10月14日 光で天敵を集めて害虫を減らす技術を開発 紫色光の照射だけで害虫の半減に成功

農研機構生物機能利用研究部門と(株)シグレイ、筑波大学は共同で、農薬を使う代わりに「光を使って天敵を集める」ことで、農業害虫であるアザミウマを防除する技術を開発した。アザミウマは、多くの農作物に害を与える害虫。今回の研究では、アザミウマの天敵である「ナミヒメハナカメムシ」が紫色の光(波長405ナノメートル)に強く誘引されることを解明した。これを利用し、ナスの露地栽培で紫色の光を照射した結果、照射なしの場合に比べ、ナミヒメハナカメムシを含むヒメハナカメムシ類の数は10倍に増加。一方、アザミウマの数は半分以下になり、紫色光照射の高い防除効果が確認された。現在、この防除技術については、約2年後の商品化を目指し、企業と連携して製品化が進められている。それに先立ち、シグレイでは、「光利用型天敵農業サービスパックお試し版」の提供を開始した。

 

多くの農作物に害を与えるアザミウマ 農薬がほとんど効かない害虫のまん延

アザミウマはナス、トマト、イチゴなど、多くの農作物に害を与える大害虫で、主に農薬(化学合成殺虫剤)により防除が行われてきた。しかし、近年では殺虫剤がほとんど効かない害虫(アザミウマ、アブラムシ)が栽培現場にまん延しており、日本の野菜全体で毎年1000億円を超える経済損失が発生するなど、大きな問題となっている。

また、消費者の食の安全に対する意識の高まりから、無農薬や減農薬野菜に対する消費者のニーズも益々高まっており、農薬を使わない害虫防除技術の開発が求められている。

農薬に代わる害虫防除技術としては、害虫を捕食する「天敵昆虫」を利用する方法がある。この技術は、既に施設栽培の一部で実用化されている。しかし、露地栽培で天敵を利用する場合、コスト等の問題から、天敵を生息地である畑周辺の野生環境から畑に呼び込む(誘引する)ことが必要となるが、効率的な方法が見つかっていなかった。

こうした状況の中、農研機構生物機能利用研究部門では、アザミウマの天敵であるナミヒメハナカメムシの効率的な畑への誘引方法の開発を目指し、様々な生物学的特性の解析を行った。

 

ナミヒメハナカメムシの波長選好性を分析、畑で実証試験を実施

多くの虫は、光に向かって集まる特性を持ち、さらに波長により好き嫌い(波長選好性)があることが知られている。そこで、今回の研究では、ナミヒメハナカメムシの波長選好性が調べられた。その結果、ほとんどの虫が好まない紫色の光(405ナノメートル)に強く誘引されることが分かった。この結果から、紫色の光の照射によってナミヒメハナカメムシを畑に呼び込み、害虫のアザミウマを防除できる可能性が示された。

この成果を元に、研究グループは、紫色LEDを用いた露地ナス栽培での実証試験を行った。その結果、畑の天敵(ヒメハナカメムシ類)の数は、照射なしの場合の約10倍に増加した。一方、害虫(アザミウマ)の数は、照射なしの場合の半分以下に減少(60%減)し、紫色光照射の害虫防除効果が証明された。

 

アブラムシの防除にも応用可能 他の技術との組み合わせに大きな期待

ナミヒメハナカメムシは、アザミウマに加えアブラムシの天敵でもあるため、この技術をアブラムシの防除に応用することもできる。また、農薬の代わりに、天敵や光の照射を使う害虫防除技術であることから、殺虫剤が効かなくなったアザミウマ・アブラムシにも有効である。今後は、他の技術と組み合わせることで、無農薬、あるいは減農薬栽培を達成するための総合的病害虫管理技術の一つとして普及拡大していくことが期待されている。


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