国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が取り組む「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」の一環として、(人工知能(AI)を活用した信号制御システムの開発を進める一社)UTMS協会と住友電気工業㈱はこのほど岡山県警察本部の協力のもと、岡山市内2カ所の交差点でAIによる渋滞予測を活用して信号を制御する実証実験に成功した。
今後、この成果を全国の交通管制システムへのAI導入に向けて活かすべく、検討を進め、より少ない車両検知センサーによって、より低コストな信号制御を実用化し、交通渋滞の解消と低炭素社会の実現に貢献することを目指す。
現在日本国内に設置されている多くの信号機では、道路上の車両検知センサーが計測した交通量と渋滞の長さに基づいて交通管制センターから最適な青信号の時間を制御している。特に渋滞長を計測するためには交差点流入路に沿って数百メートルごとに渋滞計測用車両検知センサーを設置することが必要で、運用コストの高さが課題となっている。一方、車両検知センサーに代わる新しい交通情報源として車両から直接収集される走行軌跡情報(プローブ情報)が注目されているが、対象車両が限定されるためにデータが収集できない時間帯があるほか、車両からの情報送信周期や収集センターでの集計処理にかかる時間などにより、交通管制センターにプローブ情報が収集されるまでに遅れが生じるという課題がある。
これらを解決するためNEDOとUTMS協会、住友電気工業株式会社は「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」を目指し、人工知能(AI)技術を活用して融合させたプローブ情報とセンサー情報に基づいて、信号制御の高度化を図る研究開発に取り組んでいる。
今回の実証実験は、岡山市の国清寺交差点および妹尾西交差点で行ったもので、まず岡山県警察本部交通管制センターに導入したAIに、過去の交通量や周辺環境情報などの時空間情報とプローブ情報で得られた渋滞状況の相関関係を学習させた。
次にこのAIに、交通量計測用車両検知センサーで取得した交通量から渋滞長を推定させた。交通管制センターの交通情報処理部では渋滞計測用車両検知センサーで計測された渋滞情報を使用せず、AIが推定した渋滞情報を活用し、信号制御処理部に情報を送ることで2カ所の交差点で信号機の最適な制御を行った。
車両センサー半減でも性能維持
実験の結果、AIによる渋滞予測に必要な交通量計測用車両検知センサーのみを残し、既存の車両検知センサーを半減しても従来と比較して渋滞状況に変化はなく、信号制御の性能を維持できることを確認。このことから、車両検知センサーの削減によりインフラコストを低減できるとともに、渋滞計測用車両検知センサーが少ない交差点でも適切な信号制御が可能になるなど、交通渋滞の減少に伴う低炭素社会実現への貢献が期待される。
今後、NEDOが取り組む事業の一環としてUTMS協会と住友電気工業株式会社は、全国の交通管制システムへのAI技術導入に貢献するため、今回の研究成果に基づき標準仕様案の検討を進めていく。
また、NEDOは今回の関連事業として、次世代の交通管制システムの技術確立を目指した「AIを組み込んだ適応型の自律・分散交通信号機」の研究開発にも取り組んでいる。UTMS協会と住友電気工業株式会社は、今回のAIによる渋滞長の推定を自律・分散交通信号機の入力情報として活用する検討を進めていく。