2023年2月10日 低温積算時間の実況と予測値を表示 スマホで果樹の促成栽培管理を支援

農研機構は、メッシュ農業気象データシステムにより配信される毎時気温情報をもとに、露地の低温積算時間を計算して表示するWebページ「果樹の低温積算時間表示システム」を公開した。このシステムは、Webブラウザ画面上で、低温積算時間の実況を知りたい地点と起算日を指定すると、この地点の2月末日までの低温積算時間ごとの到達日と到達予測日を表示する。また、都道府県と日付を指定すると、低温積算時間のヒートマップを都道府県ごとに表示する。

モモ、ナシなどの落葉果樹が春に萌芽するためには、それに先立つ秋冬季に、ある温度範囲の低温に、一定時間以上さらされる必要がある。樹種によって萌芽に必要な低温の範囲やそのさらされる時間(低温積算時間)は異なる。従来、7.2度以下の低温に何時間以上さらされると萌芽できるかを一つの目安とし、促成栽培における保温資材の被覆時期や加温の開始時期の判断など栽培管理に利用してきた。

近年では、秋冬季の温暖化傾向で、萌芽に必要な低温積算時間の到達時期が以前より遅くなることにより、これまでの経験則が通じなくなってきている。また、加温用燃焼資材の高騰が続き、促成栽培における効率的な加温開始時期の判断がより一層重要となってきている。

これまで公設試験研究機関や地域の普及機関等では、独自に観測する気温や最寄りのアメダスの気温のデータを利用して、各々低温積算時間を計算してきた。しかし、近くに観測地点がない園地では、計算値が実際と異なる場合があり、園地ごとにより正確な低温積算時間を把握したいという要望があった。

一方、農研機構は、1km四方の大きさの領域(基準地域メッシュ)を単位に日平均気温や日積算降水量などの日別の気象データをオンデマンドに提供するメッシュ農業気象データシステムを運用してきた。2021年1月より、新たに気温の時別値(毎時気温)の過去値、9日先までの予測値の配信を開始し、これまで日最高・最低気温などから推定していた毎時気温情報をメッシュ単位で直接利用可能になったことから、このデータを利用して、容易かつ正確な露地における低温積算時間を予測できるシステムの開発に取り組んだ。

 

簡単な操作で果樹の促成栽培に有用な低温積算時間に関する情報を取得

今回開発されたのは、メッシュ農業気象データの気温データ過去値、予測値を利用して、スマートフォンやPCなどの端末のWebブラウザで閲覧できる「果樹の低温積算時間表示システム」。このシステムでは、簡単な操作により果樹の促成栽培に有用な低温積算時間に関する情報を得ることができる。

 

地点の実況と予測

画面上の地図から任意の地点を選んで〝計算実行〟をタップすると、低温積算時間現在値を表示する。また、2月末まで200時間ごとの低温積算時間の到達日と到達予定日を表形式で表示する。GPS機能があるスマホ等では現在位置の指定が可能。低温として積算を行う基準温度は変更することができる(初期設定は7.2度)。起算日は、10月~2月の範囲で変更可能(初期設定は当年度の10月1日)。

 

実況地図の表示

都道府県と日付を指定して〝ダウンロード〟をタップすると、都道府県単位でヒートマップ化された低温積算時間の実況地図を表示する。年は2019年度以降、日付は10月~2月で1週間ごとに選択できる。実況地図はPNGファイル形式。

 

このシステムにより、これまでは経験に基づき歴日で決めていた加温開始時期について、低温積算時間の実況を地点ごとにリアルタイムで把握できることにより低温積算時間をもとに適切に判断できるようになる。その結果、萌芽・開花までの加温期間の短縮による省エネ効果が期待されるとともに萌芽率の向上や斉一化による安定生産に繋がる。さらに、実況地図は、過去の低温積算時間の推移から、加温開始時期の見直しに利用できるほか、低温積算時間を基準とした栽培適地の再考にも利用できる。

 

データ駆動型生産システム 開発のファーストステップ

農研機構果樹茶業研究部門では、生育予測モデルや農業気象データ等を活用して、適期栽培管理を支援する動的な栽培暦の提供や果実品質予測による栽培管理へのフィードバックなど、データ駆動型の生産システムの開発に取り組んでいる。そのファーストステップとして、低温積算時間の情報提供の試用が始められている。このシステムの運用により、データ駆動型の生産技術のニーズを拾い上げ、寄せられた意見をもとに今後システムを拡充していくとしている。


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