2024年6月28日 低コストなスラリーインジェクター開発 家畜ふん尿由来液肥を効果的に散布可能

農研機構は、株式会社北海コーキ、株式会社北海道クボタと共同で、これまで主に草地、水田に表面散布されていたメタン発酵消化液や家畜ふん尿スラリー等の液肥を土中に施用でき、既存機械を活用することにより低コストな2機種のスラリーインジェクターを開発した。本機は、液肥を土中に注入してアンモニアの揮散を抑制することで、液肥中の窒素を有効利用できる。加えて、施用時の臭気を軽減することも可能となる。本機の活用により、メタン発酵消化液や家畜ふん尿スラリー等の液肥について、周辺地域や環境に配慮した有効な肥料資源として循環利用の促進が図られることが期待される。

 

大型機・小型機の2機種のラインアップを開発

北海道では、近年、乳牛の飼養頭数が増加し、それに伴いふん尿発生量も増加傾向にある。また、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が2012年に開始されて以降、メタン発酵の事業性が向上し、ふん尿を原料としたメタン発酵施設の導入件数が増え、特に北海道の十勝地方ではすでに45基が稼働している。それに伴い、メタン発酵の発酵残渣であるメタン発酵消化液等の液肥の発生量が増加している。

こうした状況により、本州と比較して広い牧草地を有し、これまで牧草地を中心とした利用が可能であった北海道であっても、発生する消化液やスラリー等を含めた液肥全量を消費することが難しくなっている。さらに、化学肥料使用量の低減や地域資源循環の観点からも、畑作での利用をより積極的に進める必要性が高まっている。

しかし、従来の表面散布では液肥の肥料成分であるアンモニアの揮散率が高いため、牧草や水稲等への利用と比較して多くの施肥が必要な畑作物に対して十分な窒素施用が困難で、畑作農家にとって栄養的メリットが小さい状況だった。

また、液肥の散布は農地の規模に応じて施用規模が異なるため、今回の研究では、アンモニアの揮散を抑制して、液肥を土中に施用でき、低コストで導入できるスラリーインジェクターを大規模向け(大型)・小規模向け(小型)の2機種として開発した。

 

大型機の特徴

大型機は、北海道の畜産農家が一般的に所有している、4~20t容量のスラリータンカーに後付けするタイプのインジェクター。トラクター後部の三点リンクに本機を接続して、その後方にスラリータンカーを配置して挟む形で利用する。液肥を土中施用する部分は、土中に空洞を形成する刃(空洞形成刃)、液肥注入部、土壌を転圧するローラーから構成される。大きな空洞を成形する改良された刃により、多量施用時でも安定的に施用することができる。大型機の適用馬力帯は90馬力以上。

さらに、大型機は、空洞形成刃の種類を変え、土中に大きさや形状の異なる空間を形成することで、液肥を施用量4~8t/10aの範囲で土壌中に施用することができる設計となっている。実際に、5t/10aの条件で消化液を施用し、想定通り、深さ10~20cmの位置を中心に施用できることが確認されている。

また、インジェクターで消化液を土中施用した場合、消化液が表面に露出することなくほぼ全量を土中に施用できるので、アンモニア揮散量はほぼゼロになる。一般的に、消化液を土壌表面に施用した場合には、窒素成分の最大3割程度がアンモニア揮散によって減少することが知られているが、このインジェクターを用いることでその問題を解消し、消化液の肥料効果を最大化できる。

加えて、農家が所有するスラリータンカーに接続することで低コスト化が可能だ。

大型機は、液肥を土中に施用するため臭気がほぼ発生せず、悪臭が問題となっている地域では悪臭対策としても有効である。

 

小型機の特徴

小型機は、既存の農地排水改良用全層心土破砕機をベースとしたインジェクター。機械上部に約400~600リットル容量のタンクを積載し、機械下部に1~3連で配置したV字の心土破砕刃で作成した溝内にタンク内の消化液を注入できる構造を有している。小型機の適用馬力帯は70~120馬力。

また、小型機では、土中5~50cm深さに、破砕刃の後方に空間を作り、液肥を表面露出させずに施用することができる。土中に空間が作られること、土壌の破砕により土壌が膨軟化して吸水性が高まることにより、施用量4~10t/10aの範囲で消化液を土中施用できる。

既存の農地排水改良用全層心土破砕機にタンクと配管を追加した構造のため、一般的なインジェクターと比較して低コストであり、より低コストな散布車が求められる小規模メタン発酵施設にも導入可能。また、同機をベースにしているため、消化液の施用を行わないときには、農地の排水改良用機械として利用することもできる。

 

普及に向け実演や現地実証を推進

今回開発されたスラリーインジェクターは、メーカーからの市販化が予定されている。主なユーザーとして、酪農家、農協等の農業団体、メタン発酵事業者が想定されている。

農研機構では、本機の普及のため、各地域での実演や現地実証に取り組んでいくとしている。


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