手洗いなどの個人予防対策は8割で励行されているが、高齢者や妊婦などハイリスクな労働者への配慮の実施率は低いことが、東京大学大学院生らが行った新型コロナウイルス感染症に対する企業内対策調査で明らかとなった。テレワークや在宅勤務の励行の実施率はあまり高くない。また、企業内対策の数が多いほど、従業員の精神的な健康度や仕事のパフォーマンスが高いという。研究チームでは、企業に対して包括的な対策の実施を促すことや、規模の小さい企業や特定の業種での対策を支援することにより、新型ウイルス感染拡大防止とともに労働者の健康維持が期待されるとしている。
高齢者・妊婦への配慮、4割未満
この調査研究を行ったのは、東大大学院医学系研究科医学博士課程3年の佐々木那津さんと同研究科の川上憲人教授ら。わが国での新型ウイルス感染症拡大の初期に企業内対策の実施状況を明らかにすることを目的に、全国の一般労働者1488人を対象に、3月19日から22日にオンライン調査を行った。
調査の結果、労働者のうち79.9%は勤務先から新型コロナウイルス感染症に関する社員向けの通知を受け取っていた。手洗い・手指消毒・マスク着用の励行などの個人予防対策の実施率は高く8割以上が回答。体調が悪い時の出勤自粛要請も76.4%、社内外イベントの中止や延期も60.5%で高い実施率を記録した。
一方で、「高齢者や妊婦などハイリスクな労働者への配慮」「感染時の補償に関する情報提供」「特別な措置が実施される期間に関する情報提供」はそれぞれ39.8%、35.3%、33.0%と3割台。テレワークや在宅勤務の励行は2割台の26.8%と低い実施率。「働く環境(デスクの配置や動線など)の変更」に至っては17.2%と、1割台の低水準となった。
事業所の規模別でみると、従業員1000人以上の大企業の労働者以上の大企業での労働者は、93.0%が何らかの社員向け通知を受け取っていたが、50人未満の企業の労働者では56.8%に留まる。この傾向は性別・年齢・業種で調整した解析でも同様に低い結果となっている。
また、製造業と比較し、医療・福祉、情報通信サービス、公務員でなんらかの通知が行われた割合は有為に高い。業種によって実施できない対策があるため、単純に比較はできないが、対策の実施数は特に小売業・卸売業、運輸業で比較的低いことがわかった。
積極対策が招く労働者の精神的健康
対策の実施数が多いと答えた労働者のほうが、新型コロナウイルス感染症に対する不安が有為に高かったものの、心理的ストレス反応はおおむね低く、仕事のパフォーマンスは高かった。研究グループでは、勤務先の企業や団体で対策を多く実施するほど、新型感染症に対する自覚が高まり不安を感じやすいものの、十分な対策を施すことで労働者の精神的な健康とパフォーマンスには良い影響があることを示唆していると分析している。
この研究結果は、新型コロナウイルス感染症流行感染初期に、わが国の企業で実施された対策を老土砂の報告により集計し、企業規模別・業種別の対策状況を明らかにしたもの。今後の感染拡大防止に向けた企業内対策の推進に大きなインパクトをもたらすことが期待される。
重点的な支援が必要とされる小規模事業場や特定業種に対し、政府や関連組織の迅速な対応を促す根拠となる。また、企業内対策の推進が、労働者の精神的な健康とパフォーマンス向上に貢献する可能性が示唆され、経営者など経済活動のステークホルダーに対しても対策を促す根拠ともなるとみられる。研究グループでは、今後は流行期が異なる状況での追跡調査を行い、企業内対策の実施状況の変化を把握する予定。