センシングやIoTなどの技術を用いて、施設の介護・看護職員の行動を追跡し継続的に記録していく。構築されたビッグデータを分析して課題を洗い出せば、サービスの質の向上や効率化に結びつけられるのではないか。
Yahoo! JAPANグループのIDCフロンティアが15日、ウチヤマホールディングスや九州工業大学などと共同でそんな実証実験を行ったと発表した。人材の不足がどの業界でもネックになる今後を見据え、介護の現場でも新たなテクノロジを駆使して職場環境を改善していく努力が欠かせないと指摘。「この実験で得られた行動パターンや時間分布などを、データを基にした業務シフトの見直しや職員の育成につなげていく」との考えを示した。得られた成果は他の事業者でも活用できるとして、「今後は様々な業種とのオープンイノベーションを進めていく」と意欲をみせている。
実証実験が行われたのは今年の1月から3月。ウチヤマホールディングスの連結子会社が運営する介護付き有料老人ホームで、介護職員22人、看護師5人に小型のセンサーデバイスを身に付けてもらった。入居者のプライバシーに配慮しつつ、各階の居室や食堂、浴室などにもセンサーを設置。個々の職員がどんな動きをしているか、どの仕事にどれくらいの時間を費やしているかといった現場の実態を可視化するために、およそ12億レコードにのぼるデータをクラウドに集積したという。
公表された資料によると、記録の作成に多くの時間が使われていることが明らかになった。集まったデータをひも解き、巡視や処置、コール対応、申し送りといった31種類の業務ごとにかかっている時間をみたところ、看護師では「個人記録」が全体の14.1%で最長。介護職員は「食事対応(11.5%)」、「トイレ介助(10.5%)」、「個人記録(9.8%)」の順に長かった。このほか、朝の7時台、17時から19時まで、深夜の0時台に多くの業務が重なっていたという結果も報告されている。
実証実験に参加した九州工業大学は今後について、「国の支援も得てIoTや機械学習などの技術の性能向上、その適用分野の拡大に努めていく」と説明。「介護・医療分野への適用は、高齢化社会における国民生活の質の向上に大きく資する」と強調した。ウチヤマホールディングスは、「この実験で得られた知見やデータを基に、IT技術を用いた現場効率の改善手法を積極的に取り入れていく」としている。