足元で介護事業者の倒産が急増している。特に訪問介護が多く、通所介護もかつてない水準となっている。
東京商工リサーチは4日、介護事業者の倒産の動向をまとめたレポートを新たに公表した。
今年上半期(1月~6月)で81件。前年同期の1.5倍に膨らんで過去最悪となった。グラフは伸び幅の大きさを物語る。
全体の約半数を訪問介護の事業者が占めている。通所介護の増加も顕著。いずれも各年の上半期としての過去最多を大幅に更新した。
レポートによると、今年上半期の倒産の79.1%が販売不振(売上不振)。全体の77.7%が職員10人未満、87.6%が資本金1千万円未満など、小規模な事業者が目立つ。ただ負債1億円以上も24.6%で、東京商工リサーチは「中規模の倒産も増えてきた」との認識を示している。
◆物価高、人材難、競争激化…
倒産件数が急増していることは、介護事業者の経営環境がかなり厳しくなっている現状を示す。物価高騰に伴うコスト上昇は終わりが見えない。慢性化していた人手不足は、他産業の賃上げの先行でより深刻になった。
大手も本腰を入れるなか、人材の確保や利用者の獲得をめぐる競争は一段と激化。各種加算の取得や生産性の向上など、事業存続のために求められる取り組みが難しくなったこともあり、ついていけない事業者が立ち行かなくなっている。
コロナ禍で始まった「ゼロゼロ融資」の返済を迫られることなども、倒産のトリガーの1つだという声も少なくない。介護業界は新たに参入してくる新設法人も増えており、競争原理に基づく淘汰、適者生存の新陳代謝が進んでいるという側面もある。
今年度の介護報酬改定で追い詰められた事業者がいる可能性も高い。東京商工リサーチもレポートの中で、倒産が増えた要因の1つに改定をあげて「影響は大きい」と分析した。とりわけ訪問介護については、基本報酬の引き下げが事態の悪化を招いたという見方が強まりそうだ。
淑徳大学・総合福祉学部の結城康博教授は、「訪問介護の基本報酬の引き下げは、地域に根ざして活動する小規模な事業所の経営に大きな打撃を与えた。今年1月の発表後、なんとか持ちこたえる意欲をなくして諦めてしまった事業者もいる」と指摘。「既に地域では、必要な高齢者が訪問介護を十分に使えないケースも少なくない。政府には訪問介護の基本報酬を引き上げてほしい。まずは早急に改定前の水準に戻すべき。そうでないと今後、〝制度あってサービスなし〟の状況が一段と深刻になっていく懸念が強い」と話した。