近年の気候変動による砂漠などの乾燥地の拡大は、農作物生産性低下の主な要因となっており、世界で増え続ける人口を養うため食糧の生産と確保が懸念されている。
宇都宮大学や鳥取大学、理化学研究所、東京農業大学、九州工業大学、カリフォルニア大学リバーサイド校の国際共同研究チームは、耐乾性に関与する植物ホルモンに着目し、水消費量を抑えながら穀物生産を実現する節水型耐乾性コムギを開発することに成功した。
今回の研究成果は、降水量が少ないために耕作が困難であった乾燥地や干ばつが多発する地域における食糧生産の切り札になることが期待される。
日本でも全国各地で異常ともいえる気候変動が取り沙汰されているが、地球規模で起こる気候変動は、大規模な干ばつの発生および砂漠などの乾燥地の拡大といった影響をもたらし、農作物生産の主な減産要因となっている。
一方、コムギは先進国だけでなく、経済発展に伴ってアフリカなどの発展途上国でも特に需要が増加している。そのため、将来にわたって世界的な食糧の安定供給を実現するには、乾燥地でも育つ耐乾性に優れたコムギを開発することが急務となっている。
これまで、遺伝子の機能検証が比較的容易なシロイナズナなどのモデル植物では、単純に水を欠乏させる実験で植物の耐乾性が研究されてきた。しかし、乾燥地での植物生産を考慮する場合、植物が必要とする水消費量と種子収量の双方を評価する指標で研究する必要がある。
開発したコムギの水やりを止めて水欠乏状態にしたところ、葉からの蒸散量が抑制され、期待通りに耐乾性を示した。また、光合成量は通常のコムギと変わらず、水消費量当たりの光合成効率は約15%増加していた。最終的に得られた種子収量や種子成分が通常のコムギと比べて変わらないことが明らかとなり、水消費量当たりの1リットルで換算した場合に生産された種子量が35%増加した。
これらの結果は開発したコムギが水の消費を上手く節約しながら乾燥した環境、あるいは水の利用に制限のある地域でも、種子の生産性を維持し、高品質の種子を生産できる「節水型耐乾性」の能力を獲得したことを意味している。
コムギは比較的乾燥した土地で栽培されているが、干ばつや砂漠化によるコムギの減収は、今後大きな課題になることが予想される。
一方、アフリカをはじめとした発展途上国のコムギ需要の高まりから、コムギ栽培がこれまで困難であった乾燥地域においても栽培範囲を広げることができれば、それらの国々の食糧自給率を改善し、食糧の安定供給に貢献することが期待できる。今回の研究成果はこれらの問題解決の糸口になることが期待される。
野生のコムギでも今後検証へ
実験に使ったコムギは、遺伝子組換えコムギだが、社会的受容性を考慮し、現在、研究チームでは、野生の遺伝資源で同様の性質を持つコムギを見いだしており、今後、世界の乾燥地における実用品種開発に向けた研究と実用性の検証を行っていく予定だという。