東京大学大学院農学生命科学研究科の伊藤昭彦教授と(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所の橋本昌司主任研究員(兼東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)らが参加した国際研究チームは、世界各国・地域の最新の森林データを分析し、地球上の森林の炭素の動きを調査した。その結果、過去30年にわたり正味の炭素吸収力が維持されていたことが分かった。しかし、その内訳は大きく変化しており、炭素の吸収力は温帯林と再生された熱帯林で増加し、北方林と熱帯原生林で減少していた。今後、森林の炭素吸収力を維持するには、森林減少と劣化を食い止め、森林の再生を進め、さらには木材の収穫方法など森林利用の改善を図る必要がある。
今回、国際研究チーム(日本、アメリカ、イギリス、中国、フィンランド、スウェーデン、オーストラリア、ロシア、カナダ、オーストリア、インドネシア)は、世界中のデータを精査し、過去30年間の地球上の森林の炭素吸収力を解明した。
森林生態系による炭素吸収は、地球上の炭素循環の中で最も重要な吸収源であり、気候変動の理解・予測・対策に大きな意味を持つ。その量を求める最も直接的な方法は、各国・地域の統計や観測に基づくデータ(森林インベントリ)を集めて詳細に解析するもの。最初の分析が2011年に公表され、2024年に最新データを用いたバージョンアップが行われた。
今回の研究では、世界の森林における炭素吸収力が、1990年代と2000年代は3.6プラスマイナス0.4ギガトン(=ペタグラム)で安定しており、2010年代も3.5プラスマイナス0.4ギガトンであったことがわかった。
しかし、内訳は大きく変化しており、温帯林(1990年代から2010年代でプラス30%)と再生された熱帯林(同プラス29%)では吸収量が増加していたが、北方林(同マイナス36.%)と熱帯原生林(同マイナス31%)では減少していた。また、ほかの研究が示しているように、陸域の炭素吸収量の総量は増加しているため、全吸収量に占める森林の寄与は低下していることになる。
さらに、森林の吸収量の3分の2程度に相当する量の炭素が熱帯林の破壊により排出されていた。これを考慮すると、世界の森林の炭素吸収力は年0.93プラスマイナス0.63ギガトン(1990年代)、1.66プラスマイナス0.56ギガトン(2000年代)、1.39プラスマイナス0.69ギガトン(2010年代)となった。
世界の森林の炭素吸収力は、現在はかろうじて維持されているものの、森林の老齢化や、未だに続く森林破壊、激化するかく乱などのために危機に瀕していると考えられる。
一例として、熱帯原生林は未だに減少と劣化が続いており、アマゾンでは強い干ばつが頻発し、森林の炭素吸収力を低下させている。北方林では、気候変動により山火事や病虫害、干ばつによるかく乱影響が強まっている。永久凍土の融解による生態系の変化も問題となっている。温帯林では再植林や過度の森林利用からの回復があったが、それらの森林も老齢化を迎え、炭素吸収力が低下するステージへと近づいている。また、温帯林でも気候変動によるかく乱が問題となっている。
今後、森林の炭素吸収力を維持していくために最も重要なことは、森林減少と劣化による炭素放出を食い止めることで、すでに蓄積されている森林の炭素を保存することも含まれる。また、植林による炭素吸収力の向上も重要。よりインパクトの小さい収穫方法や、山火事が起こりにくい管理など、クライメートスマートな森林施業も重要である。木材製品をより長く使っていくことや、持続可能で循環型の木材利用を進めていくことも有効だ。
今回の研究は、森林の炭素吸収力維持の一助となるものであり、今後、研究を進めていくことで森林機能の理解が一層深まることが期待される。