卑近な例で申し訳ないが、人気俳優による病院経営のさまざまな問題と恋愛模様が絡む医療ドラマが人気を呼んでいる。こうしたテレビドラマなどでもよく出てくるのが、執刀医が看護師らに青い手術着=「ガウン」と呼ぶ=のヒモを結んでもらうシーン。これを大阪大学国際医工情報センターなどの研究チームが「セルフガウン」として実用化した。経済産業省のサポートを得て、大阪や兵庫の企業と共同開発したもので、手術室や救命センター、外来処置室などでニーズの高い「ひとりで着脱は可能な手術用ガウン」として今春から商品化される。
一切の介助なしで
従来のガウンは首ヒモ・内ヒモ・を結ぶ際にサポートスタッフの介助がなければ清潔に着脱できない設計となっている。新たに開発されたガウンは、首ヒモの代わりにバネ性のある特殊リングを首周りに編み込み、背中の引き合わせ構造を立体設計とすることで内ヒモを廃止。さらに、腰ひもに特殊なミシン目加工を施し、粘着テープによる仮止め機能を付加して、一切の介助なく着脱できる画期的な方式を実現した。
日本をはじめとする先進諸国の医療現場では、診断・手術・治療の高度化・複雑化・細分化に伴って、サポートスタッフの労働負荷を軽減し、人的資源を最大限活用する取り組みが検討されている。
特に、大規模災害時の医療体制の整備やエボラ出血熱などさまざまな感染症に対する危機管理が喫緊の課題となっている。
医療現場の専門性や特殊性を考慮すれば、患者の安全性を最優先するための職員配置はもちろん、医療機器だけでなく、人や動物の疾病診断や治療などに使用し患者に全くダメージを与えない非医療機器についても一層の高機能化、週販環境の整備を進める必要がある。こうした医療現場のニーズから、サポートなしで医療従事者が自身で着脱できる手術用ガウンの研究が始まったのだという。
今回開発された手術用ガウンは、多忙を極める医療現場の業務改善と、深刻な問題となっている各種医療事故の防止、安全・安心な医療の実現に大きく寄与する。また、大規模災害や救急、感染症の現場などでも医療従事者の迅速な対応を可能にする。
数年前に西アフリカで猛威を振るったエボラ出血熱の感染患者治療では、多くの医療スタッフが現地入りし奮闘した。しかし、感染防止のために着用していた防護服を脱ぐ際に、付着していた感染性物質に触れ一部の関係者が感染する医療事故も報告されている。安全・迅速に脱げる手術用ガウンは、まさにこうした現場で効果を発揮できる非医療機器といえる。
今後も着脱方式を改良
特筆すべきは感染性物質の飛沫を防止できるよう「グローブを内側に巻き込みながら一緒に脱げる」という特長。従来のガウンは「先にグローブを脱いでから、背面のヒモをほどいて脱ぐ」ため、グローブに付着した感染性物質が飛沫し周囲を汚染するリスクがあった。脱衣に伴うこうしたリスクを、セルフガウンは事実上ゼロに抑える。
産学官連携による共同開発の成功事例といえる今回のガウンは、今年4月10日を目途に商品化する予定。
今後、塵芥や放射能除染、介護などにも応用
阪大をはじめ、開発に参画している企業では、今後も着脱方式のさらなる改良を進める方針。また、この着脱方式は、医療分野以外で使われる塵芥処理や放射性物質除染作業の着衣などにも応用可能。
さらに、介護衣類に応用できれば、超高齢社会を迎えたわが国において、研究開発の意義は大きく広がっていくものと考えられる。