農研機構は、カンキツのDNAマーカー開発支援用のデータベース「ミカンゲノムデータベース(MiGD)」を開発・公開した。
次世代シーケンス技術の進展により様々な植物でゲノム配列が解読されているが、カンキツでは農研機構が2017年にウンシュウミカンの全ゲノム配列を解読しており、今回も新たにカラタチの全ゲノム配列を解読している。また、他の研究機関でも、これまでにオレンジ、クレメンティンなど8種類のカンキツやその近縁種のゲノム配列を解読・公開している。これらの情報をマップベースドクローニング等による有用遺伝子の特定や、優良個体の選抜、品種鑑定に利用するには、DNAマーカーの開発が重要となる。
今回開発されたデータベースでは、10種類のカンキツとその近縁種(ウンシュウミカン、カラタチ、オレンジ、クレメンティン、ポンカン、ブンタン2種、シトロン、カンキツの近縁野生種2種)について、DNAマーカー開発に必要な、種間や品種間のゲノム配列のわずかな違い(多型)を容易に探索できる。また、ウンシュウミカンとカラタチの全ゲノム配列情報と遺伝子のアノテーション情報や、カンキツ類全般で利用できる約2700の既存DNAマーカー情報も閲覧できる。
このデータベースは、カンキツの育種事業を行う公設試験場などや、権利侵害の輸入防止を行う税関等が、カンキツの有用遺伝子の特定や、新品種育成過程での優良個体の選抜、品種鑑定を効率的に行うのに役立つと期待されている。
求められるデータベースの開発
農研機構では、カンキツの優れた新品種の育成を効率化するため、優良形質の幼苗選抜に利用できるDNAマーカーの開発や、育成者権保護のためのDNA鑑定技術の開発を進めている。
これまでDNAマーカーの開発には、クレメンティンやオレンジなど海外で多く栽培されるカンキツの全ゲノム配列情報を利用してきた。しかし、国内の優れた育種素材を最大限に活用して新品種を効率的に育成するためには、国内で広く栽培されている在来種や育種素材の全ゲノム配列を解読し、それらのゲノム配列情報やDNA多型情報などが簡単に閲覧できる操作性の優れたデータベースを開発する必要がある。
カンキツでは、2014年にクレメンティンやオレンジ、2017年にはウンシュウミカンの全ゲノム配列が解読され、公開されている。国内の育種素材を対象とした高精度DNAマーカーの開発を加速するためには、全ゲノム配列の高精度化と操作性の優れたデータベースの開発が必要となっている。一方、国内でカンキツの台木として広く利用されているカラタチについては、カンキツトリステザウイルス抵抗性、疫病抵抗性、耐凍性などマンダリン類にはみられない優れた特性をもっているが、全ゲノム配列は解読されておらず、有用遺伝子の単離や台木品種の育成などの取組は進んでいない。
カラタチの全ゲノム配列を解読・公開
今回の研究で農研機構は、既に公開していたウンシュウミカンの全ゲノム配列を高精度化するとともに、世界で初めてカラタチの全ゲノム配列を解読・公開した。ゲノムサイズの大きさは、ウンシュウミカンでは3億5000万塩基対、カラタチでは2億9000万塩基対となっており、ゲノム中に4万1489個と3万4333個の遺伝子が存在することをそれぞれ推定した。
ウンシュウミカンとカラタチの全ゲノム配列の精度は、既に公開されているクレメンティンのものと同程度以上であり、遺伝子の構造解析やDNA多型の検出には十分な精度である。
3つのデータベースを統合
また、今回の研究では、ウンシュウミカンとカラタチの全ゲノム配列情報から、有用形質を支配する遺伝子の単離やDNAマーカーの開発を効率的に行えるようにするため、ゲノムアノテーションデータベース、DNA多型データベース、CAPSマーカーデータベースを統合したミカンゲノムデータベース(MiGD)が開発された。それぞれのデータベースは遺伝子IDで紐づけられており、利用者はデータベース内で目的とするゲノム領域の配列情報や多型情報を簡単に抽出することができる。
ゲノムアノテーションデータベースは、キーワード検索等により任意の遺伝子のゲノム配列情報、アノテーション情報が閲覧できる。
DNA多型データベースには、オレンジ、ポンカン、ウンシュウミカンなど10種類のカンキツの公開ゲノム配列が比較できる形で掲載されており、目的のゲノム領域のDNA多型情報を閲覧できる。
CAPSマーカーデータベースには、約2700種類のCAPSマーカーのプライマー配列情報やこれまで作成した連鎖地図、クレメンティンやウンシュウミカンの公開全ゲノム配列における位置情報などが掲載され、さらに代表的なカンキツ品種のCAPSマーカーの遺伝子型情報、カンキツの品種識別マニュアルに利用されたプライマー情報などが閲覧できる。
このMiDGを利用することで、品種鑑定や育種選抜などに利用するDNAマーカーの開発に必要なゲノム情報を容易に取得でき、研究開発が高速化する。
新品種の育成・権利保護の効率化への貢献に期待
今回の研究成果で得られたウンシュウミカンとカラタチの全ゲノム配列から、種無し性、早生性、病害抵抗性、栽培性に関わる重要遺伝子を効率的に見出し、それらの情報を基に高精度なDNAマーカーを開発することでカンキツの新品種の育成の効率化につながる。また、品種開発の国際競争力の維持には、海外への不当な流出を防ぐ必要があることから、今回の成果の活用により、DNA鑑定技術の開発が促進され、新品種の権利保護の効率化が期待される。