2016年10月7日 マーカー埋込まずに腫瘍捉える 重粒子線がん治療システム、来年度にも新製品

(株)東芝と国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研機構)は、重粒子線がん治療装置向けの腫瘍追跡技術を開発した。コンピュータによる学習機能を用いた画像認識を利用することで、体内に金属のマーカーを埋め込むことなく、呼吸に伴って動く腫瘍を含む領域を特定し、誤差1ミリ程度の精度で腫瘍の位置を追跡する。東芝は、この技術を搭載したシステムについて、来年度の製品化を目指す。

重粒子線がん治療は、光速の約70%まで加速した炭素イオンビームを体外から腫瘍に照射し、がん細胞を破壊する治療法で、治療が可能な症例には制限があるが、患者への負担が少なく、短期間で治療できることが特長。

肺がんなど呼吸に伴って動くがんを重粒子線などの放射線で治療する場合は、呼吸の動きに合わせて患部に治療ビームを照射し、正常組織への影響を避ける必要がある。呼吸に同期した照射を行うには、X線透視装置を用いて患部付近に埋め込んだマーカーを目印に腫瘍を捉える方法と、マーカーを用いずに患者の体表面の動きをセンサーで監視して呼気時にビームを照射する方法がある。

 

埋め込みは患者の負担大きい

量研機構では、現在マーカーを使用しない方法を採用しているが、呼吸同期照射のさらなる高度化のため、治療時にX線透視装置で直接腫瘍の位置を把握しながら治療ビームを照射する方法を検討していた。

マーカーを使用する方法では、マーカーを使用しない方式よりも高精度で腫瘍の位置を捉えることができるが、マーカーの埋め込みは患者の負担が大きくなる。そのため、マーカーを使わずに高い精度で腫瘍を捉える手法が望まれていた。

今回発表された技術では、まず治療前に撮影した患者の鮮明な4次元画像による4D‐CT画像をもとに、デジタル再構成シミュレーション画像(DRR画像)を作成する。そのDRR画像から腫瘍のある領域と腫瘍のない領域を分け、それぞれの形態的特徴をコンピュータに学習させる。

 

誤差1ミリ程度で位置特定

治療時には、コンピュータが実際のX線透視画像に対して、学習で得られた形態的特徴をもとに、実際のX線透視画像内のどの領域が腫瘍かを判断する。これにより、体内へ金属のマーカーを埋め込まずに、誤差1ミリ程度で腫瘍の位置を特定できる。東芝が映蔵事業で培ってきた画像処理技術と、量研機構が持つ豊富ながん治療実績を活用し、今回の技術開発に至った。

腫瘍追跡技術研究の成果は、9月下旬にボストンで開催された放射線治療に関する国際会議「第58回米国放射線腫瘍学会(ASTRO2016)」で発表された。

東芝では「今後も重粒子線がん治療装置をはじめとした最先端がん治療システムの研究開発を加速し、質の高いがん治療の実現に貢献していきます」を抱負を明らかにしている。

量研機構は「重粒子線治療の普及を視野に入れ、この技術による治療の高精度化を進めていきます」と決意を新たにしている。


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