2021年1月27日 ブリの漁獲量にも関連 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永是)付加価値情報創生部門アプリケーションラボの美山透主任研究員と北海道大学の見延庄士郎教授らの共同研究によると、北海道・東北沖に広がる親潮海域で2010年から2016年まで、地球温暖化の影響が懸念される「海洋熱波」と呼ばれる水温上昇が毎年夏に発生していた。

水温の上昇は水深200m以上に及び、黒潮由来の暖水渦が親潮の沿岸での南下を妨げたことによるものであることも明らかになった。さらに、2010年以降に北海道太平洋側におけるブリの漁獲量が急増しており、水温上昇と漁獲量の変化に有意な関係があることも認められた。

海洋熱波とは、数日から数年にわたり急激に海水温が上昇する現象。発生頻度は過去100年間で大幅に増え、海洋生態系に与える影響が危惧されている。日本近海でも地球温暖化による海水温の上昇が見て取れるという。

近年、地球温暖化による海面水温上昇とともに、海洋熱波と呼ばれる数日から数年にわたる急激な水温上昇が注目を集めている。海洋熱波の発生頻度は過去100年間で大幅に増加し、1925年から2016年までの間に世界全体では年間発生日数が54%も増加している。

海洋熱波は、地球温暖化と相まって海洋生態系に大きな影響を与える可能性がある。近年、日本の親潮海域でも高い水温が観測され、2010年以降の北日本の沿岸域では、ブリなどの温帯魚が以前よりも多く漁獲されていることがよく報道されている。逆にサンマなどの寒流魚は2010年以降激減していることが知られている。

人工衛星のデータから海面水温の2010‐2016年の平均と1993‐2009年の平均との差を見ると、親潮海域で特に夏の海面水温が上昇していた。過去にも水温が高かった年はあったが、連続して温度が高くなったことはなかった。2010年以降に温度が高くなってからブリの漁獲量が上昇していることから、両者が関係していることが強く示唆される。

海洋熱波では、統計で10%以下しか起こらない高水温が5日以上続くという定義が使われる。2010~2016年の夏に海洋熱波は毎年発生。基準の2倍を上回る強い海洋熱波が発生した年もあった。

 

高水温は海面下まで広がる

さらに、海洋研究開発機構アプリケーションラボが開発した海流予測モデルで調べた結果、夏に高水温となるのは海面だけでなく、海面下にまで広がっていた。特に2015年から2016年にかけては、夏だけでなく冬も水温が高くなっていた。水温だけでなく塩分も高くなっており、高温で高塩分である黒潮の影響が示唆される。

一般的に海洋熱波の原因は、大気温が高くなって大気が海を温めること、または海流の変化が考えられる。今回の場合、水温が高くなった結果として海から大気に与える熱はむしろ増えていることから、暑い夏が続いて水温が高くなったわけではない。黒潮から親潮海域に達した暖水渦が増加し、沿岸寄りの親潮の南下をせき止め、温度上昇につながっていると推測される。

なぜ黒潮由来の渦が多くなったのかまではわかっていない。研究チームでは今後、原因のメカニズムを明らかにする研究を進める。2017、2018年と温度が平年並みに下がったが、2019、2020年と再び水温が上昇した。ブリの漁獲量も高止まりしたまま。海洋熱波の起こりやすい状況が常態化している恐れがある。

また、日本周辺の海洋変化は、地球温暖化で水温が徐々に上昇するだけでなく、海洋熱波による急激な変化が起こりうることを示す。地球温暖化が進むと漁業などへの海洋熱波の影響はより大きいものになると考えられる。


株式会社官庁通信社
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町2-13-14
--総務部--TEL 03-3251-5751 FAX 03-3251-5753
--編集部--TEL 03-3251-5755 FAX 03-3251-5754

Copyright 株式会社官庁通信社 All Rights Reserved.