2019年1月21日 フラワーアレンジメントが効果的 高次脳機能障害者の記憶力向上

農研機構と茨城県立医療大学は、事故や脳卒中などにより認知機能に障害を負った「高次脳機能障害」の人がフラワーアレンジメントを利用した認知機能の訓練「SFAプログラム」を実施すると、記憶力が向上し、その効果が3ヵ月間保たれることを明らかにした。

SFAプログラムは、両者が2010年に開発したフラワーアレンジメントを作成する作業を通して認知機能の訓練を行う手法。利用者が吸水スポンジに付けた○や△の印に順に花材を挿して、パズルを組み立てるようにフラワーアレンジメントを作成する。

今回、高次脳機能障害者を対象に臨床研究が行われたが、その結果、SFAプログラムに参加した16名の被験者では、記憶テスト得点が平均12.7点から23.3点へと有意に向上し、非参加群と比べると4割以上得点が高くなった。さらに、16名中追跡調査した9名では、3ヵ月後もテスト成績の向上効果が維持されていた。

このプログラムについては、高次脳機能障害者の認知リハビリテーション手法の効果に期待が寄せられている。

 

認知リハビリテーションとしてのフラワーアレンジメント

「高次脳機能障害」は、不慮の事故や病気によって脳に損傷を負い、記憶や言語などの認知機能や社会性が低下し、生活に支障をきたしている状態を指す。高次脳機能障害者が日常生活で自立し、社会復帰するためには、症状に合った認知リハビリテーションが重要となる。

農研機構と茨城県立医療大学は、これまでの研究で、認知リハビリテーションを目的とした新しい手法として、フラワーアレンジメントを利用したSFAプログラムを開発している。

フラワーアレンジメントの作成過程では、視空間認知能力や記憶力、注意力など様々な認知機能を要するため、認知リハビリテーションに適していると考えられていた。

SFAプログラムでは、利用者は手順書に沿って、スポンジ上の○や△の印の順に花材を挿し、繰り返しフラワーアレンジメントを作成する。2010年には、この手法を利用した認知リハビリテーションの効果と生花による心理面への効果について臨床研究によって検証を行っている。その結果、統合失調症患者の視覚性ワーキングメモリ能力が向上すること、さらに生花を利用することで意欲が高まり、他の訓練法に比べて参加率が上昇することを明らかにした。

その後、SFAプログラムの実施対象を、不慮の事故や脳卒中によって高次脳機能障害を負った人達へ広げ、2013年には注意障害が改善した症例、2016年には視空間認知能力が改善した症例を報告している。

今回、新たに多数例の高次脳機能障害者を対象としてSFAプログラムの認知リハビリテーション効果が調査されたが、記憶力が向上し、その効果が持続することが明らかとなった。

 

臨床研究でプログラムの効果を検証 視覚性記憶力テストの平均点が向上

研究では、不慮の事故や脳卒中により認知機能に障害を負った16名の高次脳機能障害者(平均年齢43.8歳)を対象に、約4週間の間にSFAプログラムを6回行う臨床研究を実施し、その効果を検証した。研究の参加者は、受傷(または発症)から1年以上経過した慢性期で、症状は安定しており、ごく軽度から重度の記憶障害を示していた。

SFAプログラムに参加した被験者は、視覚性記憶力を図るテストを4回にわたって受けたが、1回目は12.7点だった平均点が、4回目には23.3点へと有意に向上し、4回目の得点は非参加群と比べると4割以上高い値だった。重度記憶障害の被験者の成績も向上した。

また、追跡調査を行うことができた16名中9名の被験者では、向上した成績は3ヵ月後も維持されていた。

 

今後は加齢に伴う認知機能 低下への予防効果について検証

高齢者人口の増加が見込まれる国内では、加齢に伴う認知機能の低下を防ぎ、健康寿命を延ばすための研究・開発が注目されている。そのため、研究グループでは、今後、SFAプログラムの対象範囲を広げ、高齢の高次脳機能障害者に対する検証を進めるとともに、加齢に伴う認知機能低下への予防効果も検証していくとしている。

また、この技術は、一般の人の初歩的なフラワーアレンジメントの作成にも利用できる。資材(印付きスポンジ資材)は生花店やインターネットで販売されており、2018年12月現在、卸売り体制が整ったことで、国内すべての生花店、雑貨店等で取り扱われることとなった。

児童から高齢者まで、様々な年齢層の人達の生花に触れる機会が増えることで、生花の新規需要の創出、国内花き産業の活性化につながると期待されている。


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