東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻杉山弘和准教授の研究グループは、バイオ医薬品の無菌充填工程における装置選択ツール『TECHoice』のプロトタイプ版を公開する。計算・インターフェース機能をサーバーに展開し、オンラインソフトウェアとしての機能を持たせ、製薬企業をはじめ幅広いユーザーからの自由なアクセスが可能になった。今後は、プロトタイプ版を起点に実用版を開発する。『TECHoice』の実用化により、市場拡大が進むバイオ医薬品を、効率的なプロセスで製造できるようになることが期待される。
バイオ医薬品製造では従来、タンクなどのステンレス製装置を、バッチ生産のたびに洗浄・滅菌する「マルチユース技術」が用いられてきた。この手間を省く新技術として、あらかじめ洗浄・滅菌された樹脂製装置を組立て、使い捨てる「シングルユース技術」が登場。しかし、両技術は、コストなどさまざまな面で異なる特徴を持つにも関わらず、総合的な評価手法は未確立だった。
研究グループは、無菌充填工程におけるシングルユース・マルチユース技術の選択を、経済性・環境影響・製品品質・供給安定性を考慮して実施するためのオンラインツールを開発してきた。今回、そのプロトタイプ版を、学術誌での発表とともに公開。製薬企業をはじめ幅広いユーザーからの自由なアクセスが可能になる。今後、プロトタイプ版を起点に機能の拡充を進め、『TECHoice』の実用化を目指す。
モノクローナル抗体に代表されるバイオ医薬品の市場は急速に拡大しており、製造プロセスの効率化が急務になっている。一般に、バイオ医薬品の製造工程は、原薬製造(抗体のような有効成分をつくる工程)と、製剤製造(注射剤のような利用可能な形態にする工程)で構成している。
今回対象とした無菌充填は、製剤製造の一工程で、原薬をろ過滅菌し、バイアルなどの容器に充填する重要工程。この工程は患者に届く最終製品を扱うため、製造装置は「清浄」「無菌」であることが求められる。従来は、ステンレス製のタンクやパイプを、バッチ生産のたびに洗浄・滅菌する「マルチユース技術(Multi‐Use Technology:MUT)」が用いられてきた。
一方、この手間を省く新技術として、あらかじめ洗浄・滅菌された樹脂製装置を組立て、使い捨てる「シングルユース技術(Single‐Use Technology:SUT)」が登場した。
しかし、両技術は、コストをはじめさまざまな面で異なる特徴を持つにもかかわらず、これらを総合的・定量的に考慮し、技術選択の意思決定を行うための手法は確立されていなかった。
研究グループは、無菌充填における装置技術の選択を、経済性・環境影響・製品品質・供給安定性を考慮して実施するための手法を研究してきた。さらに、構築した手法をオンラインで実行するためのツール『TECHoice』を開発。今回、そのプロトタイプ版を、学術誌Processesでの発表とともに公開する。Processesはオープンアクセス・ジャーナルで、論文は特集号「Model‐Based Tools for Pharmaceutical Manufacturing Processes」に掲載される。
自由にアクセスできるプロトタイプ版の公開により、さらなるニーズや課題の特定など、研究に新たな展開が生まれることが期待される。研究グループでは、機能の拡充を進め、ライセンス版としての実用化を目指しており、実際のプロセス設計に活かされることで、市場拡大が進むバイオ医薬品を、効率的なプロセスで製造できるようになることが期待される。