2017年10月20日 ニホンナシ花芽の枯死による発芽不良 主要因は「凍害」、肥料等の散布時期の変更で対応

農研機構と鹿児島県農業開発総合センターは、近年、九州各県で増加しているニホンナシ花芽の枯死による発芽不良の主要因が「凍害」であることを明らかにした。温暖化によって秋冬季(10月~2月)の気温上昇により、花芽の耐凍性が十分高まらないため、冬の寒さにより凍害を受け、花芽が枯死していた。また、今回の研究では、秋冬季に肥料や堆肥を散布することで、耐凍性の上昇が妨げられることが明らかになった。さらに、発芽不良が発生しているほ場での実証試験の結果から、肥料や堆肥の散布時期を慣行の秋冬期から翌春に変更することで、発芽不良の発生が大幅に少なくなることが分かった。

 

九州各県で発生している問題

近年、九州各県では、温暖化の影響で暖冬年を中心にニホンナシ「幸水」等の露地栽培で花芽の枯死による発芽不良が発生している。ニホンナシ等の落葉果樹は、秋から冬にかけて気温が低下するにつれて発芽の耐凍性が高まり、厳冬期に最大となることが知られている。発芽不良は暖冬の翌春に発生が多いことから、秋冬季の気温上昇により耐凍性が十分に高まらないことが要因のひとつと考えられていたが、詳細は明らかになっていなかった。

 

児島県と茨城県を比較

今回の研究では、発芽不良の発生が多い鹿児島県と、発生がみられない茨城県で花芽の耐凍性の変化が調査された。その結果、鹿児島県では花芽の耐凍性が十分に高まらず、耐凍性の指標となるニホンナシの花芽が凍害を受ける危険限界温度(凍害発生危険温度)は、耐凍性が最大となる厳冬期(1月~2月)でもマイナス6℃前後と比較的高く、この時期の最低気温と同等であったことから、花芽が凍害を受け枯死していることが分かった。一方、茨城県では厳冬期の花芽の凍害発生危険温度はマイナス16℃前後と低く、同時期の最低気温マイナス9℃に対して十分な耐凍性があることが分かった。

また、これまでに秋季の施肥を中止することで発芽不良の発生が軽減することが分かっているが、今回、秋冬季における花芽の窒素含量と耐凍性の関係を調査した結果、花芽の耐凍性は窒素含量が高いほど低いことが分かった。

さらに、研究では発芽不良が発生しているほ場で実証試験が行われたが、肥料や堆肥の散布時期を慣行の秋冬季から翌春に変更すると、花芽の耐凍性は秋や冬に散布した樹の花芽に比べて高く、花芽の枯死による発芽不良の発生が大幅に少なくなることが明らかとなった。

この結果から、ニホンナシの耐凍性を高めるためには、肥料や堆肥の散布時期を慣行の秋冬季から翌春に変更することが有効と言える。また、5年間継続して肥料や堆肥の散布時期を春に変更しても、樹の生育や果実の品質に違いが生じないことが確認されている。

 

すぐに取り組める対策技術

地球温暖化がさらに進行すれば、九州地方にとどまらず、全国のナシ産地で秋冬季に発芽の耐凍性が十分に高まらず、発芽不良が発生する可能性がある。今回の研究で肥料や堆肥の散布時期を翌春へ変更することが有効なことが分かったが、この方法は発芽不良が深刻な九州地方のニホンナシ産地ですぐに取り組める対策技術であり、農研機構では、その留意点をまとめたマニュアルも作成している。


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