2021年12月15日 ニホンジカの性比 分布の周辺部と中央部で異なる 個体群管理手法の進展への貢献に期待

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所は、熊本県が収集しているニホンジカの捕獲個体情報を解析し、角を持たないシカ(角なし:成獣メスと子)と角を持つシカ(角あり:成獣オス)の比率が県内でも地域によって異なることを明らかにした。さらに、同県が収集しているシカの生息密度情報を基に地域ごとのシカの生息密度指標を算出し、角あり、角なしのシカの比率と比較したところ、生息密度指標が3程度に達するまでは生息密度指標が高い地域ほど角なしシカの割合が高いことが分かった。

生息数増加と分布拡大に伴い、日本各地でシカによる農林業被害が深刻化していることから、効率的、効果的な個体群管理手法の確率は喫緊の課題となっている。メス(角なしシカのほとんどを占める)の捕獲、駆除は、その有効な手段として指摘されてきたが、メスを選択的に捕獲することはこれまであまり上手くいっていなかった。今回の研究成果は、生息密度が高い地域で捕獲圧を高めることによってメス捕獲を促進できる可能性を示すものであり、個体群管理手法の進展に貢献すると期待されている。

 

地域ごとの捕獲個体の性比と生息密度指標を比較

シカによる農林業被害は深刻で、全国の被害総額は年間約100億円以上と見積もられており、生息数増加と分布拡大阻止への対策は喫緊の課題となっている。特にメスの駆除は個体群の縮小に効果的と言われており、個体群管理では効率的にメスジカを駆除していくことが重要。しかし、メスジカがどこに多く生息しているかは分かっていなかった。

シカでは、まず一部の若いオスが分布の最前線に定着し、その後にメスがやってくると言われている。そのため、分布域となっているエリアの外周部は生息密度が低くオスが多く、分布域の中心部では生息密度が高くメスが多くなると考えられる。そこで、研究チームは、熊本県が収集した捕獲個体の情報と定期的な生息密度調査結果を用いて、地域ごとの捕獲個体の性比(メスとオスの比)と生息密度指標を比較した。

 

生息密度が高い地域にはメス、その外側にオスが多く生息

熊本県では、捕獲に「くくりわな」が広く用いられており、この方法では雌雄を選択して捕獲することはできない。捕獲個体の情報としては、角の有無を基準にして雌雄が記されているが、メスと記載されているものの中にオスの子が含まれている可能性があったため、今回の研究では、角なし(成獣メスと子)と角あり(成獣オス)として取り扱った。

捕獲された個体の情報を角あり、角なしに着目して地域ごとにみると、県の北部よりも中央部から南東部で角なしシカの割合が高い傾向があった。一方、生息密度指標も同様に、県北部よりも中央部から南東部で高い傾向にあった。

また、両者の関係をみると、生息密度指標が3程度に達するまでは生息密度指標が増加するにつれ、角なしシカの割合が増加することが分かった。この結果から、分布域の中心部となる生息密度が高い地域にはメスが多く生息し、その外側にはオスが多く生息していると考えられる。

 

メスを効率的に捕獲できる可能性示す

分布域の中で生息密度が高い地域では、メスとの遭遇率が高くなることが予測される。今回の研究結果は、分布域の端ではなく中心部で捕獲を行うことで、メスを効率的に捕獲できる可能性を示すものであり、個体群管理の効率を高めることに役立つと考えられる。研究グループでは、今後、各都道府県が管理計画の中に示している分布状況や生息密度情報をもとにその中心部を特定して捕獲を実施し、雌雄別に集計、比較し、その有効性を確認する必要があるとしている。


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