農研機構と株式会社バンダイナムコ研究所は共同で、ドローンと人工知能(AI)を用いて、イネ科牧草とマメ科牧草が混播された牧草地におけるマメ科牧草の被度(植物の群落を構成する各種類が地表面を占める割合)を簡便に推定できる手法を開発した。この成果により、手作業で行う画像解析の約5000分の1の時間で、マメ科牧草割合を高精度かつ効率的に評価できるため、マメ科牧草の密度に合わせた施肥や不足するマメ科牧草の追加播種といった精密な草地管理が可能になる。また、混播に適したマメ科牧草の品種開発への利用も期待されている。
混播栽培のメリットと課題
北海道内の牧草地では、イネ科牧草とマメ科牧草の種子を混ぜて播種する混播栽培が一般的に行われている。イネ科牧草だけでは不足するタンパク質やミネラルといった良質な牛乳の生産に必要な成分を、マメ科牧草により補えることがその理由だ。
また、マメ科牧草の根に共生する根粒菌は、土壌に窒素を与えるため、窒素施肥量を減らすことが可能になり、マメ科牧草だけではなくイネ科牧草の生育を助ける。
こうした効果を最大限引き出すためには、混播草地におけるマメ科牧草の被率を把握し、適正な割合(約30%)に維持する必要がある。
通常、マメ科牧草割合は、重さを量る収量調査か、専門家の目視により評価されている。収量調査は、牧草を分けて重さを量る非常に手間のかかる作業であり、狭い範囲の試験ほ場に限定される。そのため、広い草地に対して専門家以外でも実施できる客観的な評価法として、混播草地を上からドローンで撮影し、空撮画像上でマメ科牧草の占める領域を人手で判定し塗り分けて、その面積を算出するという方法が考えられる。
しかし、この方法では多くの労力がかかり、そのまま実用化することは困難だった。そこで今回の研究では、「人が塗り分けて面積を算出する作業を人工知能(AI)に任せる」ことが考えられた。このドローンとAIの組み合わせは、新しい評価技術の開発に大きな威力を発揮した。
研究成果のポイント
【学習したAIモデルによってマメ科牧草の被度を推定】
研究では、まず、ドローンを用いてイネ科牧草・マメ科牧草の混播試験草地を真上から撮影し、この空撮画像に対して、マメ科牧草の領域について人手で塗り分けた画像を作成し、AIモデル学習のためのデータセットを作成した。
次に、このデータセットに基づき、ニューラルネットワークのモデル(GoogLeNet)を学習させることで、空撮画像の断片のマメ科牧草被度を推定するAIモデルを作成した。
作成したAIモデルを用いて、別の空撮画像に対して推定を行った結果、マメ科牧草が多い、または少ない箇所を認識し、被度とその分布状況を推定することができた。
【高精度かつ効率的なマメ科牧草割合の評価が可能】
作成したAIモデルを用いて複数の検証用画像に対して推定を行い、画像全体のマメ科牧草被度の推定結果を算出したところ、人手で精密に塗り分けて得られたマメ科牧草被度と高い相関があった。
マメ科領域を人手で塗り分けると1平方メートルあたり3時間以上かかるが、AIモデルを用いると自動的に約2.5秒で被度の算出を完了することができた。
この成果によるAIモデルを用いることで、高精度かつ効率的なマメ科牧草被度の評価ができるようになった。
草地管理への応用や品種育成の高精度化・効率化の実現に期待
AIによるマメ科牧草割合の評価は、草地管理への応用が期待される。
混播草地の窒素施肥量は、マメ科牧草の比率によって決定されるが、これまでは草地内の牧草種の分布を考慮せずに全面同じ量を散布するか、散布量を変える場合は作業者の感覚に任されてきた。
今回の研究成果により、マメ科牧草の分布に合わせて精密な施肥を行うことができ、草地の生産力向上・肥料の削減が可能になる。
また、混播草地では、マメ科牧草をはじめとする優良牧草種が減少すると草地更新が行われているが、これには高いコストがかかる。今回の成果のAIモデルは、本当に草地更新が必要かどうかの判断や、マメ科牧草の少ない箇所へ重点的に追播を行う低コストな技術開発に貢献できると期待される。
さらに、マメ科牧草の品種育成では、イネ科牧草との適正な構成割合を維持できる特性(混播適性)が重要な育種目標となっている。研究担当者のグループでは、混播適性に優れたマメ科牧草の品種育成を行っているが、AIによるマメ科牧草割合の評価法を利用することで、品種育成の高精度化・効率化も実現されると期待される。