2019年10月30日 センサー利用可の微生物燃料電池システムを開発 CO2濃度測定の自立駆動型センサー開発に利用

農研機構と旭化成エレクトロニクス(株)は共同で、水田や池に設置できる安価で実用的な微生物燃料電池や、その電力を効率的に回収するエナジーハーベスタを開発した。この2つを組み合わせた微生物燃料電池システムは、気温やCO2濃度などを測定するセンサーの駆動に利用でき、スマート農業や地球温暖化の解析に向けた環境モニタリングへの貢献が期待される。

スマート農業の電源として注目される微生物燃料電池

データ駆動型のスマート農業では、気温や湿度、CO2濃度などの環境因子を多くの地点で測定することが望まれる。

多数の地点で測定を行う場合、測定装置を駆動させる電源の確保が問題となるが、その電源として「MFC(Microbial fuel cell:微生物燃料電池)」が注目されている。

MFCは、土壌や池などに含まれている有機物を燃料として発電する新しいバイオ電池で、発電細菌と呼ばれる細菌群がMFCの負極に付着して有機物を分解することで発電する。既存の発電法と比較して出力が低いので大規模な発電には不向きだが、センサーを駆動する程度の発電力は備えている。また、太陽光や風力発電とは異なり、天候に依存せずに夜間や無風でも24時間発電するという利点がある。

しかし、MFCの製作には、電極素材や正極の白金触媒、水素イオン交換膜など高価な部材が必要であり、さらに材質が劣化しやすいなど実用化に向けて課題が残されていた。

また、MFCの出力電圧は動作状態で0.2~0.6V程度に留まるため、温度センサーなど、一般的なセンサーモジュールを駆動するにはエナジーハーベスタを使って出力電圧を3.3Vに上げる必要がある。しかし、既存のエナジーハーベスタはMFCの出力特性に合致していないため、効率的に昇圧することができなかった。

研究グループは、この2つの課題を解決するため、低コストで実用的なMFCと、MFCエネルギーを効率的に回収して電圧を上昇させる新しいエナジーハーベスタの開発に取り組んだ。

 

炎酸化ステンレス鋼を活用

研究では、ステンレス鋼の表面を炎で酸化した電極をMFCの負極として使用すると、MFC出力を増強できることが見出された。この炎酸化ステンレス鋼負極は既存のカーボン電極よりも高出力で遥かに安価であり、物理的に高い強度を持つ。

また、この炎酸化ステンレス鋼負極を用い、水田や湖沼など水がある環境に直接設置できるMFCが開発された。このMFCは、白金触媒や水素イオン交換膜など高価で容易に劣化してしまう部材が用いられていないので、従来の1/10以下と低コストであり、長期運転に耐えうる実用的なものとなっている。負極を土の中に挿入すると周囲に存在している発電細菌が負極に付着して、自然に発電が開始される。

さらに、研究グループは、低出力な電源からでもエネルギーを抽出できる超低消費電力型のエナジーハーベスタを開発した。このハーベスタに組み込まれている制御ICは、MFCから引き出す電流値を常に最適化する。MFC電力を効率的に回収してエネルギーをキャパシタに蓄えながら出力電圧を上昇させる。出力9マイクロワットのMFCを電源としてキャパシタの昇圧実験を行った結果、トランスホーマを利用した既存のエナジーハーベスタと、最大電力点追従制御を搭載した既存のエナジーハーベスタでは電圧を3.3Vまで上昇することはできなかったが、新規エナジーハーベスタでは3.3Vまで昇圧することができた。

次に、キャパシタを3.3Vまで昇圧させるのに必要な最小のMFC電力の解析を行ったところ、わずか2マイクロワットとの結果となった。従来型(100~5000マイクロワット)と比較して非常に低い値だが、低出力で小型、低コストのMFCからでも利用可能な電力を引き出せる革新的な高性能エナジーハーベスタであることを意味しており、MFCの実用化において重要な成果である。

また、今回の研究では、炎酸化ステンレス鋼負極を備えたMFCと新規エナジーハーベスタを組み合わせたMFCシステムが開発された。さらに、このシステムを使うことで、CO2センサーの駆動に初めて成功した。CO2センサーは温度センサーなどと比べて大きな電力を消費するため、これまでMFC電源による駆動の報告はなかった。測定データを10km以上の長距離に無線送信するLoRaモジュールとアイビーコン(iBeacon)モジュールについても駆動を成功させている。

 

センサーの開発・活用に期待

今回の研究成果は、MFCを唯一の電源とした自立駆動型センサーの開発に利用することができる。水田にセンサーを設置して気温や水温などを測定することで、施肥量、収穫量、作物病害の発生を予想するモデル構築に役立つと期待される。

また、地球上の様々な地点の河川や湖沼にセンサーを設置してCO2濃度を測定することで、地球温暖化の動態解析や異常気象の発生予想など気象学への貢献も期待されている。

エナジーハーベスタのICは、2020年度中の市販化が予定されている。


株式会社官庁通信社
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町2-13-14
--総務部--TEL 03-3251-5751 FAX 03-3251-5753
--編集部--TEL 03-3251-5755 FAX 03-3251-5754

Copyright 株式会社官庁通信社 All Rights Reserved.