世界保健機関(WHO)と国際電気通信連合(ITU)は12日、世界の12歳から35歳のおよそ半数にあたる11億人が、聴覚障害になるリスクがあると発表した。スマートフォンやその他のオーディオ機器で長時間、大音量の音を聞き続けることなどの影響が大きいという見解だ。このため両組織は、安全な機器の製造や使用に関する新しい国際規格も公表している。
両組織は音楽などのボリュームと長さについて、大人で80デシベル(救急車のサイレンや走行中の電車内)、子どもで75デシベルを1週間・40時間までに抑えるべきだと指摘。こうした枠組みを推進するため、
・「音響許容量」機能:ユーザーの音量のレベルおよび持続時間を追跡するソフトウェア。
・パーソナライズドプロファイル:ユーザーのリスニング習慣に基づいた個別のリスニングプロファイルで、ユーザーがどれほど安全にリスニングしているか(またはしていないか)をユーザーに知らせ、この情報に基づいて行動を促す。
・音量制限オプション:音量を制限するためのオプション。自動音量調整やペアレンタル音量調整など。
・一般的な情報:個人用のオーディオ機器を通じて、安全なリスニング方法に関するユーザーへの情報とガイダンスを紹介する。
―といった機能を全てのオーディオ機器に組み込むべきだと提言している。このほかにも、ナイトクラブやディスコなどの娯楽施設についても、難聴リスクが高まることを理由に規制を求めている。
新たな国際規格は、若者の音楽鑑賞の習慣を改善しようとするWHOの取り組み「Make Listening Safe」のイニシアチブの下で開発されたもの。作成に向けては、各国の政府や産業界、消費者、専門家などと最新のデータをもとに協議を2年間重ねてきた。
WHOによると、世界で聴覚障害に苦しむ人は、全体の約5%にあたる4億6600万人。このうち、大人は4億3200万人、子どもは3400万人といわれている。今から約30年後の2050年には、人数が9億人以上に増えると推計。一方で聴覚障害の半数は、公衆衛生対策によって防ぐことができるのではないかとされている。
WHO事務局長のテドロス・アドハノン博士は、「聴覚障害を予防するための技術的なノウハウがあることを考えると、これほど多くの若者が音楽を聞くことで、自身の聴覚を傷つけ続けることを許してはならない」と発言。さらに、「一旦、聴力を失った場合、回復は困難であることを理解しなければならない」と強調した。そのうえで、「今回示した新たな国際規格は今後、音楽を日常的に楽しむ若年層の聴力保護につながるだろう」と期待を寄せている。