東京大学大学院工学系研究科の横田知之准教授、染谷隆夫教授らは、(株)ジャパンディスプレイと共同で高空間解像度と高速読み出しを両立するシート型イメージセンサーの開発に成功した。このシート型イメージセンサーは、厚さが15マイクロメートルと非常に薄く、軽量で、曲げることが可能。高感度な有機光検出器と高移動度の低温ポリシリコン薄膜トランジスタとを集積化することで、高解像度と高速読み出しを両立している。その結果、高解像度が必要な生体認証向けの指紋や静脈の撮像と高速読み出しが必要な脈波の分布計測を一つのイメージセンサーで計測できるようになった。
シート型イメージセンサーをウェアラブル機器に応用することによって、生体認証とバイタルサインの計測を同時に行うことができるため、〝なりすまし〟や患者の取り違えを防止することが可能になるとともに、機器の小型化に貢献することが期待される。この研究成果は、1月20日(英国時間)に英国科学誌「nature Electronics」のオンライン版で公開された。
セルフケア時代、本格到来
日本社会の超高齢化が急速に進むなか、高騰する医療費を抑制しつつ、いかにしてクオリティー・オブ・ライフ(QOL、生活の質)を高めるかが喫緊の課題となっている。この困難な課題の解決に向けて、ウェアラブルデバイスのような新技術による生体情報の取得とその活用への期待が高まっている。
特に、患者や家族が自分の健康に責任をもつセルフケアや在宅医療は、超高齢化社会の課題解決の糸口の一つであると考えられており、実際に、本格的なセルフケア時代の到来に備えて、健康状態を常時モニタリングできるウェアラブルセンサーや通信機能付きの家庭用血圧計などが次々に市場に投入されている。
一方で、ウェアラブルセンサーによる生体情報を活用した新しい保険制度やインセンティブのある制度を設計する際に、在宅で測定したデータが患者本人のものかどうかをどのように確認するかが重要な課題とされている。また、将来、多くのウェアラブル機器が病院や福祉施設で利用されるようになると、患者の取り違えのリスクを低減する必要があり、ユーザの生体認証と同時にバイタルサインを計測することが急務の課題となっている。
こうしたなか、横田准教授らは、高分子基板上に高解像度撮像ができ、かつ、脈波を検知するための高速読み出し可能なシート型イメージセンサーを作製することに成功。このイメージセンサーは、生体認証に用いられる指紋や静脈を高解像度で撮像することができる。さらに、同じイメージセンサーを使って、バイタルサインの一つである脈波や分布を計測することが可能となった。
これまでにもシート型イメージセンサーの報告が行われてきた、高解像度撮像と高速読み出しの両立は実現できておらず、1枚のシート型イメージセンサーで、静的な生体認証データと動的なバイタルサインを計測することはできなかった。今回、横田准教授らは、こうした課題を乗り越えてセンサーを開発した。
患者取り違え防止へ期待
新型のシート型イメージセンサーは、軽量、薄型で、曲げることができるため、ウェアラブル機器に組み込むことが容易。ユーザの生体認証を行いながら、同時に健康状態を測定することが可能となるため、将来、セルフケアでの〝なりすまし〟の防止や病院での患者の取り違え防止などが可能になると期待される。
この研究成果は、東大大学院工学系研究科、(株)ジャパンディスプレイの共同研究によるもので、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業探索加速型の支援を得て進められた。