2023年3月17日 シカ個体数を減らすにはメスの捕獲が効果的 メスの捕獲割合が高い地域ほど個体数が減少傾向

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所九州支所らの研究グループは、シカ(ニホンジカ)個体数をより効果的に減らすために、メスを捕獲することが効果的であることを実証した。

過剰に増加したシカ類による生態系への影響や植林地への被害は、日本に限らず世界的な問題となっている。個体数を減らす手段の1つが捕獲であり、理論的に、仔を産むメスを捕獲すればより効果的に個体数を減らすことができるとされてきたが、それを実証した研究はほとんどなかった。今回の研究では、福岡県内で広域的に調べられてきたシカの個体数データと捕獲の統計データを基に、メス(角のない幼獣オスを含む可能性がある)の捕獲割合が高い地域では確かに個体数が減少傾向にあることを明らかにした。

今回の研究結果は、シカ個体数を減少させるために、メスを捕獲することが効果的であることを示すもの。シカを捕獲すると報奨金が支払われるが、多くの自治体ではその金額に雌雄差がない。今後、メス捕獲に対して報奨金を増加するなどのインセンティブを加えることで、より効果的に個体数を減らせる可能性がある。

 

シカの農林業・生態系への被害が問題

シカ類の増加とそれに伴う農林業や生態系への被害が世界各地で問題となっている。日本でも、シカによる農林業被害は非常に深刻で、近年の全国の農作物被害総額は年間50億円以上となっており、林業被害額を含めるとこれ以上になると推測される。過剰に増加したシカ類を減らすために世界各地で捕獲が実施されており、より効率的に個体数(密度)を減らす手法の開発が急務となっている。

従来、シミュレーションでは仔を産むメスを捕獲することで、より効果的に個体数を減少させることができるとされてきたが、それを実証できた研究はほとんどなかった。そこで今回の研究では、福岡県内で広域的に収集されてきたシカの個体数データと捕獲の統計データを基に、2001年から2017年の県内の地域ごとに、捕獲された個体の性比と個体数の増減傾向の比較が行われた。

 

無角ジカの捕獲割合が高い地域ほどシカが減少していることを確認

捕獲の統計データでは、角の有無を基準にして雌雄が記載されていた可能性があったため、メスと記載されているものの中にはメスだけでなく、角がまだ生えていない幼いオス(幼獣オス)が含まれている可能性があった。そこで今回の研究では、メスと記載されているものを無角ジカ(メスと幼獣オス)、オスと記載されているものを有角ジカとして取り扱った。

シカの個体数についてみると、県中央部で減少傾向が示され、それ以外の地域では増加傾向にあることが分かった。また、無角ジカの捕獲割合が高い地域ほどシカが減少していた。無角ジカの中には幼獣オスが含まれている可能性があるものの、有角ジカ(オス)の捕獲の効果は小さかったことから、事実上メスの捕獲が重要といえる。

一方で、例外的に無角ジカの捕獲割合が低いにも関わらずシカ個体数が減少している地域があることも分かった。その地域では、調査期間中の捕獲数が一定ではなく、後半でより多くのシカが捕獲されたことで、一時的に個体数が減少したものと考えられる。

こうした捕獲数の経時変化による例外的な地域もあるものの、今回の研究結果は、これまでほとんど実証されてこなかったメスの捕獲が個体数を減少させるのに効果的であることを示す重要な証拠となる。

 

インセンティブを加えてより効果的に個体数を減らせる可能性

シカの捕獲には、自治体より報奨金が支払われる。一部の自治体を除けば、雌雄どちらを捕獲しても報奨金の額に差はない。今後、メスの報奨金を増額するなどのインセンティブを加えてメスの優先的な捕獲を促し、メスを選択的に捕獲する方法を開発することで、効果的にシカの個体数を減らせる可能性がある。

そのため、研究グループでは、メスジカを効率よく誘引し、捕獲する手法の開発が、シカの個体数を減少させるための次の課題だと指摘している。


株式会社官庁通信社
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町2-13-14
--総務部--TEL 03-3251-5751 FAX 03-3251-5753
--編集部--TEL 03-3251-5755 FAX 03-3251-5754

Copyright 株式会社官庁通信社 All Rights Reserved.