2020年8月21日 コロナ対応医療従事者にPTSD症状 所属病院外で治療や検疫 東大研究グループが確認

依然として感染拡大に歯止めがかからない新型コロナウイルス感染症だが、患者だけでなく、医療関係者にも大きな影響を及ぼしていることが、あらためて浮き彫りとなった。東京大学大学院医学研究科大学院生らの研究グループが行った調査で、所属病院外で救護活動を行った医療従事者に心的外傷後ストレス(PTSD)症状が認められた。研究グループでは、「メンタルヘルスの問題を防止するには救護活動中でもセルフケアのための十分な時間を確保することが重要」と指摘。この研究成果は、救護活動後のPTSD症状が強く現れる危険性が高い救護者の早期発見や、救護活動後のPTSD予防策の構築に貢献することが期待される。

この調査を行ったのは、東大大学院医学系研究科精神保健学・看護学分野の浅岡紘季大学院生、西大輔准教授ら。国立病院機構本部のDMAT事務局やDPAT事務局と共同で、2月から3月にかけて所属病院外でCOVID‐19の救援活動を行ったDMATやDPATに所属する医療従事者を対象とした調査を行った。

世界中でCOVID‐19(新型コロナウイルス感染症)の感染が拡大しており、国内でも重要な公衆衛生の問題となっている。2月から3月にかけてDMAT(災害派遣医療チーム)やDPAT(災害派遣精神医療チーム)に所属するわが国の医療従事者は、病院外の派遣救援活動としてクルーズ船や帰国者滞在施設等でCOVID‐19を罹患している可能性のある人の治療や検疫を実施した。

これまでの先行研究から病院内でのCOVID‐19等の新興感染症に対応した医療従事者でPTSD症状などのメンタルヘルスの問題が報告されているが、所属病院外でCOVID‐19等の新興感染症に対応した医療従事者のメンタルヘルスの状態やメンタルヘルスの悪化の関連要因は明らかにされていなかった。

調査は救援活動後の3月11日から4月2日に実施され、PTSD症状と関連があると考えられる要因についてアンケート調査を行った。PTSD症状の関連要因について統計学的な手法によって検討した。

所属病院外でCOVID‐19の救援活動を行ったDMAT・DPAT隊員807名のうち414名から回答が得られ、全ての質問に回答した331名を解析対象者(男性74.6%、平均年齢43.0歳、医師31.1%、看護師30.5%、業務調整員38.4%)とした。救援活動中にCOVID‐19患者と接触した参加者は105名(31.7%)。病院外でCOVID‐19の救援活動を行った医療従事者で身体的・精神的疲労と周トラウマ期の精神的苦痛とがPTSD症状と関連することが示された。

加えて、DMAT隊員はDPAT隊員と比較してPTSD症状との強い関連が認められた。DMAT隊員とDPAT隊員の救援活動中の業務内容を考慮すると、救援活動中に感染症を罹患している可能性のある人と身体的な接触をすることはPTSD症状と関連する可能性が示唆された。

この研究結果から、COVID‐19等の新興感染症の救援活動を行う医療従事者においてメンタルヘルスの問題を防止するには救援活動中でもセルフケアのための十分な時間を確保できることが重要であることが示唆された。

この研究成果は、新興感染症の救援活動後にPTSD症状が強く現れる危険性が高い救援者の早期発見や、救援活動後のPTSD予防策の構築に寄与することが期待される。今後は、前向きコホート研究等を進め、COVID‐19の対応を行った医療従事者のメンタルヘルスの状態やメンタルヘルスの関連要因について長期的な調査を行う予定。


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