2017年11月22日 コムギ品種改良の加速に期待 植物個体に直接遺伝子を導入する技術をコムギで開発

農研機構生物機能利用研究部門は(株)カネカと共同で、コムギを使って植物個体に遺伝子を直接導入する技術を開発した。この手法は細胞培養や再分化が不要であり、これまで遺伝子導入が難しかった様々なコムギ実用品種に適用することができる。今後、この手法を用いることでゲノム編集等によるコムギの品種改良が加速すると期待されている。

 

困難だった実用品種への遺伝子導入

植物に遺伝子を導入(染色体にDNAを導入)する技術としては、DNAを植物細胞に移送させる性質を持つ細菌「アグロバクテリウム」を利用する「アグロバクテリウム法」や、金粒子表面にDNAを付着させ、高圧ガスの力で植物細胞にDNAを導入する「パーティクルボンバードメント法」が知られている。いずれの方法もカルスと呼ばれる培養細胞を用いており、そこから葉や根を持った植物個体を再生させることが不可欠である。しかし、培養や個体の再生といった過程は多くの植物種で大変困難であり、特に優良形質を持った多くの作物の実用品種では、培養や個体再生の効率が極めて低いため、これまで遺伝子導入が困難だった。

そこで、農研機構とカネカでは、培養細胞を使わずに植物個体に直接遺伝子(DNA)を導入する技術の開発を進めてきた。その中で、植物の芽の先端(茎頂)の生長点には、L2(エルツー)層と呼ばれる未分化細胞層があり、その細胞層から生殖細胞が生まれると考えられていることに着目。L2層の細胞に遺伝子を導入することにより、生殖細胞を通じて次世代で遺伝子が導入したコムギ個体を得ることを目指した。

 

開発された「iPB法」

今回の研究では、植物個体に遺伝子を直接導入する技術として、「iPB法(アイピービー、in planta Particle Bombardment)」が開発された。

この方法では、種子胚茎頂に着目し、顕微鏡下で微細針を使って露出させた茎頂組織に金粒子にコートしたDNAをパーティクルボンバードメント法により撃ち込み、L2層の細胞に遺伝子を導入する。その結果、遺伝子が導入された花粉細胞や卵細胞などの生殖細胞が得られ、これらが受精することで、次世代で遺伝子が導入されたコムギ個体を得ることができる。

その特徴としては、細胞培養や再分化が不要なことがあげられる。また、実験用のコムギ品種に加え、これまで遺伝子導入が困難であったコムギ実用品種にも効率よい遺伝子導入ができる。研究では、緑色蛍光タンパク質遺伝子の導入が行われたが、実験用品種「Fielder」では全個体の0.9%で遺伝子が導入され、実用品種である「春よ恋」でも0.7%で遺伝子が導入された。

 

ゲノム編集や他作物への応用に期待

iPB法は、ゲノム編集にも応用することができ、現在、CRISPR‐Cas9によるコムギ実用品種のゲノム編集が進められている。また、トウモロコシ、ダイズなど他の作物にも応用可能と考えられており、これらの作物の実用品種への遺伝子導入やゲノム編集への利用が期待されている。


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