2017年12月12日 コストを抑えた養殖に期待 低魚粉飼料でも成長の良いニジマスを作出

水産研究・教育機構と山梨県は、東海大学、日本大学との共同研究により、ニジマスに低魚粉飼料を与えて飼育し、成長の良い個体同士を交配して次世代の稚魚を作出した。この稚魚に低魚粉飼料を与えて飼育したところ、親を選抜せずに作出した稚魚に比べ、成長や飼料効率が改善された。

近年、養殖は世界的に発展しており、それに伴って養殖用飼料の主原料である魚粉が不足気味で、価格が高騰している。そのため、魚粉の配合率を減らし、コストを下げた低魚粉養殖用飼料の開発が求められているが、養殖で飼料代は全生産コストの6割前後を占めることから、養殖業の健全化には安価な低魚粉飼料でも良く育つ魚が必要とされている。

こうした中で進められた今回の研究成果に関しては、今後、選抜・交配を繰り返して低魚粉飼料でもより成長する稚魚を作出し、養殖業者への技術の普及や稚魚の配布を視野に入れた取り組みを行うこととしている。また、マス類の養殖用稚魚は、主に公的機関や養鱒業者が供給しているが、今回開発した方法は現場ですぐに使える方法であり、低魚粉飼料に適したマス類の生産が普及することで、養殖経営の改善が期待される。

 

養殖の発展により高騰する魚粉 飼料の品質改良が招くコスト増

養殖用の配合飼料の主原料である魚粉は、近年、世界的な養殖の発展により価格が高騰している。また、魚粉の原料となる天然魚の資源への配慮からも魚粉配合率の削減が求められている。わが国全体では、養殖用飼料への魚粉の配合率が依然として高いため、より安価で高性能な低魚粉飼料の開発が急務となっている。

一方、飼料の魚粉含量を大幅に削減して大豆油かすなどの植物性原料に置き換えると、摂餌や飼料効率が悪くなり、成長が低下してしまう。このため、不足する栄養素を強化する研究、あるいは植物性原料に由来する抗栄養因子の影響を軽減するための研究開発が進められているが、ほとんどの魚種で十分な情報が得られておらず、さらにこうした飼料の品質改善がコスト増を招いている。

 

実証レベルでの取り組みを開始

このため、水産研究・教育機構では、東海大学と連携して、平成21年からアマゴに必要最小限の栄養素を強化した低魚粉飼料(魚粉含量5%)を与えて成長の良い個体を選抜して交配を繰り返した。その結果、2世代目や3世代目の稚魚では摂餌が増え、飼料効率や成長が改善することが明らかになった。

次に、この手法の再現性の確認と、低魚粉飼料でもよく育つマス類の種苗の普及を目指して、平成25年から水産研究・教育機構増養殖研究所、山梨県水産技術センター、東海大学、日本大学生物資源科学部の共同研究「低魚粉飼料を与えて良好な成長を示すニジマスの家系作出に関する研究」でニジマスを対象に実証レベルでの取り組みを開始した。

 

低魚粉飼料を好み、その成分を効率よく利用する個体が作出

研究では、これまでの知見に基づき、増養殖研究所で製造した魚粉5%飼料を山梨県水産技術センター忍野支所で継代飼育しているニジマスの稚魚500尾に4ヵ月間与え、その中から成長の良い個体100尾を選抜して同飼料にてさらに2年間養成し、交配に用いた(選抜群)。この魚粉5%飼料については、魚粉に代わる原料として大豆油かすとコーングルテンミールが用いられており、飼料添加物であるアミノ酸(メチオニンとリジン)のみが強化されている。また、対照として、魚粉50%飼料を同様に与えて平均的な成長を示した個体100尾を交配するまで養成し、両群とも成熟した雌雄を複数尾ずつ交配し、稚魚を得た。

両群の体重あたりの採卵数や卵質に差はなく、2年半にわたり魚粉5%飼料を給餌することの安全性が確認されている。

得られた稚魚については、市販飼料で養成後、それぞれの群に前述の魚粉5%飼料を、①増養殖研究所では飽食量を与え(飽食給餌)、②山梨県では養殖現場での給餌に即してライトリッツの給餌率表に沿って体重あたり等量を与え(制限給餌)、それぞれ飼育成績を比較した。

その結果、飽食給餌した選抜群稚魚では、対照群稚魚に比べ、魚粉5%飼料の摂餌が増え、飼料効率や成長が改善した。また、一定量を制限給餌した試験でも成長とともに飼料効率が改善したことから、低魚粉飼料を好み、その成分を効率よく利用する個体が作出されたと判断できる。

 

手法の普及に向けた取り組みを推進

低魚粉飼料でも成長の良い個体を選抜し、より短期間で効果を出すために、アマゴを含めた一連の取り組みでは魚粉含量を5%にまで削減した飼料を与え、ニジマスでは継代1世代目で一定の選抜効果を示すことができた。

また、マス類は各所で継代飼育されている家系から種苗生産することが多いが、今回の研究では、こうした既存の家系でも選抜効果が期待できることが確認された。まだ選抜1世代目であり、かつ市販飼料より大幅に魚粉を削減して必要最小限の栄養強化をした飼料(成分が大きく変更されている飼料)であるため、選抜を継続することにより、または市販の低魚粉飼料を与えることにより、一層の効果が期待できると考えられる。

研究グループでは、今後、さらに選抜を繰り返して効果の程度を確認するとともに、養殖業者への種苗の配布や、特別な技術を要しないこの手法の普及に向けて取り組んでいく予定だ。また、この取り組みについては、養殖業の活性化と持続的経営に繋がることが期待されている。


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