農研機構は、乾燥・粉砕して粒の大きさを調整したキャベツの芯を用いることで、歯ごたえのあるペースト状食品を造形できることを見出し、3Dフードプリンタで造形可能な条件を確認した。廃棄部位であるキャベツの芯が持つ栄養・機能性成分を摂取できるだけでなく、その硬さを新たな食感表現の手段として活用することで、カット野菜製造時などに生じるフードロスの削減が期待できる。
〔微粉末化によって失われる食感、自動調理でも解決すべき課題〕
ビタミンや食物繊維などの栄養・機能性成分の供給源となる野菜、果物などの農産物の多くは、流通可能期間が短く、短期間で変質・腐敗してしまうため、フードロスの原因となってしまう。
変質・腐敗を抑制し、長期保存する一つの方法として、乾燥・粉砕がある。この方法では、保存性に加えて、乾燥・粉砕により微粉末にすることで、部位や個体間のバラツキが均質化され、砂糖や小麦粉のように、一定量を量り取って再現性良く調理加工に使えるので利便性も向上する。こうした理由から、野菜などを微粉末化するための多くの取組が行われてきた。
一方、農産物にはそれぞれ固有の食感があり、それを上手く利用した調理加工を通じて人々は農産物を美味しく摂取し、自然の恵みを実感してきた。しかし、微粉末化によって、その食感の多くは消失してしまう。一例として、生のキャベツのシャキシャキした食感は微粉末化によって大きく低下する。そのため、味、香りや栄養などの価値が保持されているにもかかわらず、この食感消失により微粉末の利用範囲は制限されている。
この問題は、次世代食品加工技術として期待される3Dフードプリンタによる自動調理でも解決すべき問題でもある。いつでも自動調理できるように保存性を高めた野菜・果物の乾燥粉末は、加水すると柔らかいペーストになってしまうため、ビタミンや食物繊維などを次世代加工食品から摂取することを想定した場合、現状の加工成型技術では、個々の野菜・果物類に特有の豊かな食感を与えることが困難となる。
〔新たな食感表現力を持つ粉末の原料候補としてキャベツの芯に着目〕
研究グループでは、新たな食感表現力を持つ粉末の原料候補として、現在、廃棄部位扱いとなっているキャベツの芯に着目。キャベツ一玉の生重量に対して15%程度を占める芯は、玉の内部にあり衛生上の問題はないが、可食部となる葉と比べて硬いため、ほとんどがカット野菜などの製造段階や調理段階で切り離され廃棄される。日本食品標準成分表2020年版(八訂)でも、キャベツの芯は廃棄部位として位置付けられている。
その一方で、キャベツの芯には、食物繊維に加えて炭水化物、アミノ酸、ビタミンC、ビタミンU、リン、カリウム、カルシウムなどの栄養やクロロゲン酸、ケルセチングリコシドなどの機能性成分が含まれることが知られている。
今回、この硬いキャベツの芯を乾燥・粉砕したものを加水、調理した際に元の硬さが残っていれば、食感表現が可能な新素材としての付加価値が生じ、フードロス削減にも貢献するとの考えの下、研究が行われた。
〔キャベツの葉・芯の乾燥・粉砕、加水した粗粉末の特徴〕
研究では、まず、キャベツの芯部と葉部を分離後に裁断し、沸騰水中でブランチングした後に乾燥・粉砕し、孔径1㎜のふるいを通過した粗粉末としてそれぞれを回収した。
次に、芯部・葉部由来の粗粉末の構造を調べるため、粗粉末に加水後、ガラス板で上下を挟み、ようかんを咀嚼する程度の軽めの加圧(約0.1MPa)を行った。その結果、葉部由来の粗粉末では潰れて約2倍の広さに拡がったのに対し、芯部由来のものでは拡大は1.5倍程度に留まった。ガラス板上部から加圧後の試料を観察すると、葉部由来の粗粉末の潰れた断片が観察されたのに対し、芯部由来の粗粉末では多くの粒状構造物が潰れずに残っていた。また、加圧を止めて上部のガラス板を外すと、この粒状構造物は加圧前の粒の形に復元した。このように、芯部由来の粗粉末は固く潰れにくく復元性のある構造を持つことが明らかになった。
〔キャベツ芯部由来粗粉末の成型加工試験〕
続いて、芯部由来粗粉末をペースト化し、棒状の食品として成型加工する試験を実施した。その結果、3D成型するため農研機構がすでに開発済みのナタピューレを混合して粗粉末をペースト状に結着させ、これを口径8mmのシリンジから押し出すことで、荒い表面を持つ棒状の成型物を創り出すことができた。
次に、3Dフードプリンタへの適用性を確認するため、市販のキャベツ葉部由来の微粉末(粒径0.3mm未満)と混合してナタピューレで結着させたペーストを調製し、口径2mmのシリンジからの押出成形試験を実施。その結果、全粉末のうち75%を芯部由来の粗粉末とした場合に、射出物が断片化されたのに対し、50%に低減した際には、ペーストは切断されずに安定的に押し出されることが分かった。また、芯部由来粗粉末の添加量が増すにつれて、得られた造形物の表面が粗くなった。
今後、3Dフードプリンタを用いてキャベツ芯部由来の粗粉末を一層安定的に造形する際には、その粒径制御を精密化するなど、さらなる検討を行う必要があると指摘されている。一例として、孔径1.0mmのメッシュを通過した画分をさらに0.5mmのふるいで非通過画分として回収した芯部由来粗粉末(0.5mm<粒径≦1.0)は、より高度に粒径制御されており、加水時の加圧試験では1.3倍程度の低い変形率を示した。こうした素材改良を行うことで、調理加工時の造形安定性や再現性の確保が可能となると考えられる。
〔より豊かな食感表現が可能に〕
キャベツの芯やブロッコリーの茎など、可食部よりも硬いために除去される農産物の部位は、カット野菜製造現場などで大量に発生する。現在、こうした副生物の多くは廃棄されたり飼料用途に供されたりして、その成分価値は十分に活かされていない。
今回、こうした副生物の硬さを新素材として活かせる可能性を示したことで、これらを廃棄せずに利用するための技術開発が加速すると期待されている。
また、次世代食品加工装置である3Dフードプリンタで農産物を加工する際には、乾燥・粉砕して貯蔵しておいた農産物を使用時に加水・ペースト化して、これを押し出して造形する工程が想定される。今回の研究では、硬い食感を与える新たな粗粉末を3Dプリント工程に活用できる可能性が示された。咀嚼感の付与などを通じて、より豊かな食感表現が可能になると期待されている。
今後の研究では、この粗粉末を用いた次世代食品加工の幅を広げつつ、カット野菜製造企業等と連携することで、新素材の実用化を加速する予定だ。