中小企業庁では、「知的財産取引に関するガイドライン」を策定するとともに、知財Gメンによるヒアリング調査を通じ、知的財産取引の適正化に努めている。知財Gメンによる調査の中で、発注者への納品物について、第三者との間に知財権上の紛争が発生した場合に、発注者が例外なく受注側中小企業にその責任を転嫁できる可能性のある契約が締結されている事案を確認した。このため、同庁の諮問機関である「知財アドバイザリーボード」(委員長:鮫島正洋弁護士)の助言を踏まえ、対象となる発注者に対し契約条項の見直し等を要請した。また、他の事業者間でも類似の契約が発生し得ることを踏まえ、現行のガイドラインと契約書ひな形を改正することとし、パブリックコメントを開始した。
中小企業庁では、令和3年3月に「知的財産取引に関するガイドライン」を取りまとめ、公表するとともに、令和4年から、知的財産取引の問題に特化して中小企業からヒアリングを行う「知財Gメン」を設置し、中小企業の知的財産取引の実態把握に努めている。
下請中小企業法に基づく「振興基準」では、知的財産権に関する取引の適正化に向けて、「知的財産取引に関するガイドライン」に掲げられる「基本的な考え方」に基づいた取引を行うこととするとともに、「契約書ひな形」の活用を推奨する旨を定めている。
また、ガイドラインの中では、発注者の指示に基づく業務について、第三者との間に生じる知的財産権上の責任を、中小企業に一方的に転嫁する行為(責任転嫁行為)、及びその旨を契約に定めることをしてはならない旨を定めている。
知財Gメンによるヒアリングの中で、中小企業への責任転嫁が例外なく認められる可能性がある契約を締結していた発注者を複数社発見し、これらの事業者に対して事実確認を行ったところ、当該条項が発動した実績こそないものの、こうした契約を実際に締結していたことが確認された。
このような条項が契約書に存在する場合、例えば、「中小企業は、発注者が決定した仕様に基づき、委託を受けて製造を行っただけ」のように、中小企業に第三者が有する知的財産権の侵害責任が認められない場合であっても、当該製品について第三者との間に紛争が生じたときは、発注者は、紛争解決責任の一切を、例外なく一方的に中小企業に転化することが認められるおそれがある。
こうした点を踏まえ、中小企業庁の諮問機関である「知財アドバイザリーボード」を開催し、有識者から意見を聴取した上で、これらの発注者に対し、以下の改善要請を行った。
1.該当する契約について、是正を行うこと
2.短期間で全ての契約について是正を完了することが困難である場合は、契約書における当該条項に関する権利は放棄する旨を、必要な取引先に対して通知すること
要請を踏まえ、該当する発注者は既に対応を開始している。中小企業庁としては、これらの発注者に対し、知財Gメンの活動等を通じ、今後も継続して対応状況を確認することを予定している。
他の発注者においても、類似の契約が幅広く存在する可能性があること、また、今後も類似の契約が新規に締結される可能性があることを踏まえ、発注者として注意すべきポイントの明確化と、未然防止策の強化を目的として、ガイドライン・契約書の改正を行こととし、7月31日からパブリックコメントの募集を開始した。
主な改正事項として、ガイドラインでは、実際の取引において発生しうる様々なシチュエーションを想定しつつ、状況に応じた適切な責任分担の考え方や、帰責事由がない下請事業者が親事業者に対して行使すべき権利等について、詳細な解説を追記。具体例は次のとおり。
・第三者の知的財産権を侵害しないことに係る保証責任や、その保証に当たっての調査費用等の負担については、目的物の仕様決定において発注者・中小企業が果たした役割等に応じて適切に分担することとし、中小企業に例外なく一方的に転嫁してはならないこと。
・発注者から中小企業への「指示」は、例えば、口頭での助言や情報提供のような、正式な書面によらない形式のものを含み得ること。
・中小企業に帰責事由がないにもかかわらず、中小企業が第三者から訴えられた場合には、発注者は、中小企業からの、目的物の使用決定に係る経緯等の開示要請や、第三者との間に生じた損害賠償についての求償等に応じるべきこと。
契約書ひな形では、責任転嫁行為を含む契約が締結されることを防止するに当たって、中小企業が参照すべきモデル条項を新設した。