2022年7月29日 カキの受粉にコマルハナバチが貢献 野生の花粉媒介昆虫を活用した省力的な栽培に期待

農研機構は、野生の花粉媒介昆虫を積極的に活用するための調査マニュアルを開発し、その研究の中でカキの花粉媒介に野生昆虫の「コマルハナバチ」が全国的に大きく貢献していることを明らかにした。受粉が必要な果樹・果菜類の栽培で、野生の花粉媒介昆虫が役立っていることは知られているが、その実態には不明な点が多くあった。今回の研究成果については、生産現場における野生の花粉媒介昆虫の貢献を把握することによって、飼養の花粉媒介昆虫として導入されているセイヨウミツバチの巣箱数を地域単位で適正化でき、省力的な栽培が可能になると期待されている。

 

花粉媒介者の働きの解明・活用が鍵

世界の主要な農作物の75%以上は昆虫類や鳥類・哺乳類などの花粉媒介者の働きに依存している。農研機構による2015年の試算では、こうした送粉サービスが介在する農作物の農業生産額は約4700億円に相当するとされ、花粉媒介者の働きの解明は、農業分野における大きな課題だった。

果樹・果菜類の栽培では、野生の花粉媒介昆虫の役割について不明な点が多いまま、補助的な人工授粉やミツバチの巣箱導入が行われている。また、労働力や経費をより効率的に用いた生産を実現するためには、野生の花粉媒介昆虫の働きを解明し活用する必要がある。

農研機構では、共同研究機関とともに、野生の花粉媒介昆虫相を把握する標準的な調査手法を開発し、生産者にも利用可能な「果樹・果菜類の受粉を助ける花粉媒介昆虫調査マニュアル増補改訂版」を令和4年3月に公表し、野生の花粉媒介昆虫の調査を進めている。

 

全国各地のカキ園で訪花昆虫を調査

今回、花粉媒介昆虫の調査方法を開発する過程で、カキを含む果樹の花粉媒介昆虫相が明らかになった。

カキについては、従来から花粉媒介昆虫はミツバチ類と考えられてきたため、多くのカキ園では、受粉を促進する目的で開花期にセイヨウミツバチの巣箱が導入されている。一方、カキにはコマルハナバチを含む野生ハナバチ類の訪花も報告されている。しかし、全国的な調査は実施されておらず、わが国におけるカキの花粉媒介昆虫相とそれらの役割について全体像は明らかではなかった。

今回、農研機構は島根県農業技術センター、森林総合研究所と共同で、全国各地のカキ園で訪花昆虫を調査した。また、主要な甘柿品種である「富有」を用いて、訪花昆虫がめしべに付着させる花粉数や、受粉と着果率の関係についても調査を行った。

 

カキについて1回の訪花による付着花粉数を初めて明らかに

研究では、カキ生産量が多い県の中から10県(福島県、茨城県、静岡県、岐阜県、和歌山県、広島県、島根県、香川県、福岡県、熊本県)のカキ園で、訪花昆虫の種類や訪花回数を調査した結果、飼養昆虫のセイヨウミツバチに加え、野生昆虫のコマルハナバチがカキの主要な訪花昆虫であることがわかった。

セイヨウミツバチの巣箱を導入している園地においても、コマルハナバチが主な訪花昆虫である事例(茨城県の調査カキ園)や、巣箱を導入していないのにセイヨウミツバチが訪花する事例(岐阜県の調査カキ園など)が見られた。これは、セイヨウミツバチの採餌行動は半径数㎞以上と広範囲に及び、巣箱を導入した場合でも当該のカキ園より遠方の別のカキ園や他種の花を利用する場合があることが原因と考えられる。

さらに、セイヨウミツバチとコマルハナバチの花粉媒介効率は同等だった。両種が1回の訪花でめしべに付着させた花粉数は、調査園や年次による変動があるが、いずれも約10~30粒だった。カキについて1回の訪花による付着花粉数が明らかになったのは、今回の調査が初めてである。

また、「富有」が十分に着花するためには、セイヨウミツバチやコマルハナバチによる複数回の訪花が効果的であることが明らかになった。コマルハナバチが雌花に1回だけ訪花した場合の着果率は約50%で、雌花を袋で覆った無受粉区と比較すると高い着果率だった。雌花を自由に訪花できる自然受粉区ではさらに着果率が高まった。

「富有」では、めしべに約27粒の花粉が付着すると、理論上の着果率が50%と予想された。この値はめしべに付着した花粉数と着果率の関係から推定したもので、コマルハナバチやセイヨウミツバチが1回訪花したときにめしべに付着させる花粉数とほぼ一致した。また、80%以上の着果率を得るには、計算上約70粒以上の花粉がめしべに付着する必要があることも分かった。

 

多くの果樹園で野生の花粉媒介 昆虫の活用が進むことに期待

今回の研究成果から、カキ園の訪花昆虫を調査してコマルハナバチの頻繁な訪花が認められた場合には、セイヨウミツバチの巣箱を導入しなくても十分な着果率が期待できることが分かった。

また、野生の花粉媒介昆虫を活用した省力・省コスト果樹栽培を実現するためには、カキ園ごとにそれらの訪花状況を把握し、地域単位でセイヨウミツバチの巣箱の必要性や適切な導入数を見極めた上で、メリハリの効いた受粉管理が望まれる。

今年3月に農研機構が公表したマニュアルには、カキを含む6種類の果樹・果菜について、花粉媒介昆虫の調査方法や主要な訪花昆虫の写真等が掲載されている。このマニュアルを利用することで、初心者でも簡単に花粉媒介昆虫の訪花状況を調査できることから、多くの果樹園で野生の花粉媒介昆虫の活用が進むことが期待される。


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