2023年8月31日 イタリアンライグラス新品種 積雪地でもトウモロコシとの二毛作が可能に

農研機構は、耐雪性に優れるイタリアンライグラス早生品種「クワトロ‐TK5」を開発した。この品種は、根雪期間80日程度までの積雪地で栽培でき、早生なので刈り取り後に夏作(サイレージ用トウモロコシ等)の生育期間を十分にとることができる。このため、積雪地でもイタリアンライグラス―サイレージ用トウモロコシの二毛作が可能となり、年間の飼料生産量の増加が期待できる。

イタリアンライグラスは、初期生育に優れ、栄養価と嗜好性が高いため家畜の生産性が高まることから、国内で最も種子流通量の多いイネ科牧草である。関東以西では、冬作にイタリアンライグラスを栽培し、夏作にサイレージ用トウモロコシを栽培する二毛作体系での生産が広く行われている。一方、イタリアンライグラスは耐雪性に劣るため、北海道や東北・北陸地域など、根雪期間の長い地域ではあまり栽培されてこなかった。また、中生品種には耐雪性に優れる品種もあるが、トウモロコシの栽培期間が限られる東北地域で二毛作を行うには、刈り取り時期の遅くなる中生ではなく、5月中旬に刈り取り作業が終えられる早生で耐雪性に優れる品種が必要である。

今回、農研機構東北農業研究センターが育成した「クワトロ‐TK5」は、こうした条件を満たしている。8月下旬から雪印種苗が販売を開始する。

 

早生で耐雪性の優れる品種を育成

関東以西では、冬作にイタリアンライグラス、夏作にサイレージ用トウモロコシを栽培する二毛作体系での飼料生産が広く行われている。しかし、早生のイタリアンライグラスは耐雪性に劣り、積雪地域ではこのような二毛作が困難とされている。

既存の耐雪性早生品種「ワセアオバ」は、根雪期間が60日を超えると減収するため、東北・北陸の積雪地域では耐雪性が十分ではない。「ナガハヒカリ」など中生品種には耐雪性の優れる品種もあるが、中生であるため夏季の短い東北地域では夏作を組み合わせることが難しい。

そこで農研機構東北農業研究センターでは、夏作との組み合わせが可能となる早生で耐雪性の優れる品種を育成した。

 

新品種「クワトロ‐TK5」の特徴

「クワトロ‐TK5」は四倍体早生品種で、試験段階のイタリアンライグラス「東北2号」から耐雪性や乾物率を選抜指標に、4回選抜することで育成された。

流通している早生品種の中で最も耐雪性に優れる「ワセアオバ」と比較すると、出穂開始日は「ワセアオバ」より2日早いが出穂期は同程度であり、早生である。耐雪性は「ワセアオバ」よりも優れ、根雪期間80日程度までの積雪地においては8%以上多収。収量性についてみると、根雪期間60~80日の積雪地では多収で、根雪期間60日以下の少雪地では「ワセアオバ」と同程度の収量。出穂期の乾物率は、「ワセアオバ」よりやや低い。このほか、倒伏程度、推定TDN含量、冠さび病抵抗性(接種検定)は「ワセアオバ」と同程度である。

「クワトロ‐TK5」を利用することで、これまで二毛作ができなかった根雪期間80日程度までの地域でも二毛作が可能となる。岩手県盛岡市の農研機構東北農業研究センターの試験ほ場では、土地面積あたりの乾物収量が40%増加すると試算されている。

 

栽培上の留意点

東北の日本海側や標高の高い地域など、根雪期間80日以上の積雪地では枯死株が増えて低収となり、100日を超える地域は栽培に向かない。

また、二倍体品種よりも種子が大きいので、播種量は多めに3~4kg/10aとされている。

さらに、「クワトロ‐TK5」は耐雪性で選抜したため、寒さに敏感に反応して生育を止める。播き遅れると冬を迎えるまでに十分な生育ができないため、播き遅れには特に注意が必要。寒冷地では9月下旬には播種を完了し、温暖地でもその地域の播種適期を守ることが求められる。

 

品種の名前の由来

「クワトロ」は、イタリア語で数字の「四」を意味する。イタリアンライグラスには二倍体と四倍体の品種があり、「クワトロ‐TK5」は四倍体の品種である。二倍体は人間と同じようにDNAを2セット持っているが、四倍体はDNAを4セット持っている。四倍体は二倍体よりも耐雪性に優れる特性があるが、これまでは四倍体で早生の品種はなかった。

今回の品種は、耐雪性に優れ、早生品種の四倍体であることを強調するため、「クワトロ‐TK5」と名付けられた。「TK5」は、品種になる前の試験段階の名前である「東北5号」を略したものである。

 

8県で普及活動を推進 2023年度内に手順書作成予定

普及対象は、酪農や肉用牛の生産者、コントラクター等の飼料生産組織。栽培適地は根雪期間80日程度までの積雪地だが、耐雪性が問題とならない少雪地でも、突発的な多雪年に備えて「クワトロ‐TK5」を栽培することが推奨されている。

今後、奨励品種に採用予定の8県(宮城県、山形県、新潟県、富山県、石川県、和歌山県、徳島県、大分県)を中心に、公設試験研究機関・普及組織と連携して普及活動を実施し、当面は年間33ha、将来的には年間100haを目指すとしている。

また、農研機構東北農業研究センターでは、栽培方法等を詳しく記載した標準作業手順書を2023年度内に作成する予定だ。


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