アメリカでの大気汚染物質排出量の推移を評価したところ、排出量が継続的に大きく削減していることを示すアメリカ環境保護庁(EPA)による推計値とは異なり、近年(2011―2015年)には2005―2009年と比較して排出量の削減率が大幅に低下し、特に窒素酸化物においては76%も低下していることを示した。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)が、アメリカ大気研究センター(NCAR)、NASAなどと共同で、JAMSTECで行った衛星観測情報を統合する新たな解析手法を用いて調査したもの。
アメリカでの窒素酸化物の排出量は世界各国の中で中国に次いで2番目に多く、削減率の大幅な見直しは日本を含む世界全体の気候・農業・健康への評価の見直しをも迫ることが考えられる。
ここ数十年、日本をはじめ世界各国において大気汚染を改善するためにさまざまな環境対策を施している。アメリカ政府も例外なく取り組んでいるが、JAMSTECによる環境対策の妥当性調査の結果、アメリカ政府及び自治体による大気汚染改善の目標が達成されていないか、もしくは遅れている可能性があることを明らかになった。
EPAによる推計値との差は、近年、ガソリン車に起因する排出の相対的な寄与が減少していること、ディーゼル車に起因する排出の削減が想定よりも低くなっていることなどに起因すると考えられる。
今回の研究成果は、アメリカでの排出規制の評価の見直しを迫るだけではなく、大気汚染物質によって影響を受ける光化学オキシダント、PM2.5、温室効果気体の存在量などの再評価を通して、健康・農業・温暖化関連対策や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)での議論にも役立つことが期待される。
カリフォルニア州では大きな削減
排出量の推移はアメリカ内での地域差も大きく、例えばカリフォルニア州ではより厳しい規制が適用されており、2015年まで継続して排出量の大きな削減があることを確認している。このため今後は、各都市や主要車道スケールでの詳細な調査と大気環境への影響評価を実施することも検討している。
日本を含む先進諸国の環境対策についてもJAMSTECで実施した衛星観測を用いたデータ同化計算による再評価は有効であり、今後の効果的な環境対策の立案に役立つことが期待できる。また、大気汚染物質の排出は、光化学オキシダントやPM2.5を生成するとともに、ブラックカーボン、対流圏オゾン、メタンなどの短寿命気候汚染物質への影響も介して、気候変動を引き起こし人体や農作物にも被害を及ぼす。
今回の研究は、文部科学省の委託事業により実施された。