2020年7月20日 アジサイのゲノム解読 八重咲き性遺伝子を特定 魅力的な品種の開発が容易に

かずさDNA研究所と日本大学、福岡県農林業総合試験場、宇都宮大学、滋賀県立大学、栃木県農業試験場は共同で、伊豆諸島の青ヶ島に由来するガクアジサイのゲノム解析を行った。

アジサイは、ハナミズキなどと同じミズキ目に含まれる被子植物で、アジサイはミズキ目のなかで初めてゲノムが解読された植物になる。

今回の研究により、アジサイ品種「城ヶ崎」と「隅田の花火」に八重咲き性をもたらす遺伝子が特定された。さらに、隅田の花火の八重咲き性は、花器官の形成に関わる遺伝子の変異によるものであると推定された。

梅雨時期に映えるアジサイは母の日のギフトとしての需要もあり、この解析により魅力的な八重咲き品種の開発が容易になると期待が集まっている。

 

ギフトとしての需要も高まるアジサイ

アジサイは、日本に自生するガクアジサイから改良された園芸品種で、萼(がく)が大きく発達した飾り花(装飾花)が特徴的。アジサイの品種改良は100年ほど前から欧米を中心に行われ、戦後その品種が日本に伝わり、「セイヨウアジサイ」や「ハイドランジア」と呼ばれて普及した。また、1980年頃からヤマアジサイやガクアジサイなど日本の自生種が採種されるようになり、これらを育種親とした新しい品種が次々に誕生している。また、5月から7月にかけて開花時期を迎え、日持ちのするアジサイは、近年では母の日ギフトとしての需要も高まっている。

 

観賞価値の高い八重咲き品種

アジサイでは、装飾花が開花後も散らずに美しさを保ち続け、美しさと長い観賞期間を作り出している。一般的なアジサイは一重咲きで、装飾花の花びら状のがく片は約4枚である。一方、八重咲き品種では、約14枚の花びら状のがく片をもつ装飾花がつく。

八重咲きは、その観賞価値が高いため、アジサイの重要な育種ターゲットの一つとなっているが、その花には雄しべがないため、花粉ができない。このため、新しい八重咲き品種を作る場合には、母親に八重咲きの品種、父親には花粉ができる一重咲きの品種を用いる必要がある。また、通常は子供世代の全ての株が一重咲き、孫世代でやっと1/4が八重咲きとなる。さらに、アジサイは交配してから花を確認するまでに3年程度かかる。八重咲き品種を効率的に作出するには、幼植物でも八重咲き性を選抜できるDNAマーカーの開発が必要となり、そのためにはアジサイのゲノム情報が必須となる。

 

ガクアジサイのゲノム解読を実施

研究チームは、今回、ガクアジサイのゲノムの解読を行った。

一般的にアジサイは容易に異種と交雑し、栄養繁殖もするため雑種性が強い植物だが、八丈島の南70kmにある南海の孤島、青ヶ島に自生するガクアジサイは他の系統との交雑が少なく遺伝的な純度が高いと考えられたため、滋賀県立大学が2012年に枝を採取して挿し木で系統を維持していた個体「青ヶ島‐1」が解析に使用された。

これまでアジサイを含むミズキ目の植物が研究対象になることは少なく、ミズキ目自体のゲノム解析はこれまでほとんど行われてこなかった。

また、これまでの研究により、アジサイの八重咲きの形質は単一遺伝子座による潜性遺伝であることが分かっていたが、八重咲き品種の「城ヶ崎」と「隅田の花火」に八重咲き性をもたらす遺伝子が同一の遺伝子座にあるかどうかは不明だった。そこで、解読したガクアジサイ「青ヶ島‐1」のゲノム情報を基盤として「城ヶ崎」と「隅田の花火」に八重咲き性をもたらす遺伝子のゲノム上の位置を解明し、八重咲き性を選抜できるDNAマーカーを開発した。

この研究では、かずさDNA研究所がゲノム配列の解読と解析、日本大学生物資源科学部が研究のとりまとめと八重咲き性をもたらす遺伝子の解析、福岡県農林総合試験場、宇都宮大学農学部、滋賀県立大学環境科学部、栃木県農業試験場が研究に使用したアジサイの育成と栽培を主に担当した。

 

ミズキ目の目レベルで初のゲノム解読

研究では、連続した1万塩基以上の長いDNA配列を一分子レベルで解析できるPacBioロングリード技術(PacBio Sequel)を主に利用して、青ヶ島由来のガクアジサイ「青ヶ島‐1」のゲノム解読が実施された。また、染色体が核内でどのように折りたたまれているかをDNA配列解析により明らかにするHi‐C法や、品種間のDNA配列の違いを基にした連鎖地図の作成によって、染色体レベルのDNA配列が構築された。ミズキ目の目レベルとして初めてのゲノム解読となる。

遺伝解析の結果、「城ヶ崎」と「隅田の花火」に八重咲き性をもたらす遺伝子は、異なる染色体に座乗することが明らかになった。さらに、それぞれの八重咲き性を選抜することができるDNAマーカーが開発された。

「隅田の花火」に八重咲き性をもたらす遺伝子は、シロイヌナズナの花器官形成に関わるLEAFY遺伝子に類似しており、フレームシフト変異により、「隅田の花火」は八重咲きになったと推定される。

得られたデータは、かずさDNA研究所のPlant GARDENデータベースで公開されている。

 

魅力的なアジサイ品種の開発に期待

アジサイには、八重咲き性のほかにも手まり咲き・がく咲きという花序形態の違いや、覆輪という花弁の縁が白くなる性質など、花きとして魅力的な遺伝的性質がある。今回の研究で解読されたアジサイのゲノム配列を基盤として、これらの遺伝子を解明するための研究が加速化することが期待される。

また、アジサイのゲノム研究が進展することで、今後さらに魅力的なアジサイ品種の開発が見込まれる。


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