国立がん研究センターと国立精神・神経医療研究センターなどの研究チームは15日、果物の摂取量が多い人ほどうつ病の発症リスクが低いとする研究結果を公表した。研究結果は精神医学雑誌「Translational Psychiatry」に掲載されている。
うつ病には先行研究により、野菜や果物の摂取が、予防として働く可能性が示されている。とりわけ〝フラボノイド〟というポリフェノール化合物は、抗うつ効果を持つことが示唆されていた。そこで研究チームは、野菜と果物及びフラボノイドの豊富な果物の摂取が、うつ病のリスク低下と関連するかを調べた。
調査は1995年と2000年に行った食事アンケートに回答し、かつ2014年から2015年にかけて実施した「こころの検診」に参加した1204人を対象に行った。具体的には、2回のアンケートから野菜や果物、フラボノイドの豊富な果物の摂取量の平均値を計算し、それぞれ人数が均等になるように5グループに分類。うつ病発症リスクとの関連をグループごとに比較した。
1204人のうち、精神科医によってうつ病と診断されたのは93人(認知症関連のうつ病と区別するため、認知症を合併している人は除外)。解析の結果、果物の摂取量が最も少ないグループと比べて、摂取量が最も多いグループにおけるうつ病のオッズ比(※)は0.34だった。また、フラボノイドの豊富な果物の摂取量が最も少ないグループと最も多いグループのうつ病のオッズ比は0.44。一方、野菜ならびにビタミンCをはじめとする関連栄養素の摂取量と、うつ病との間には関連がみられなかった。
研究結果から果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、うつ病が発症するリスクが低いことが分かった。研究チームは、果物全体とフラボノイドが豊富な果物の両方について、最も多く摂取したグループでうつ病のオッズ比が低かったと指摘。そのため、フラボノイド固有のメカニズムというよりも、果物全体が持つ抗酸化作用などの生物学的作用によりうつ病の発症に対して予防的に働いた可能性が考えられるとしている。
なお、今回の研究では調査開始時点でのうつ病の情報を得られていない。そのため、調査開始時点のうつ状態が野菜果物の摂取量に影響を受けていた可能性が除外しきれないこと、中高年における研究結果であるため若年者などにも当てはまる結果であるとは言えないことなどが課題として挙げられた。これを踏まえて研究チームは、「果物摂取量が高いグループほどリスクの低下がみられたが、今回の結果を確かめるには、より大きな集団で行うなど、今後のさらなる研究が必要だ」と述べている。
※:オッズ比
オッズとは「見込み」のことで、ある事象が起きる確率pの、その事象が起きない確率(1-p)に対する比を意味する。オッズ比とは2つのオッズの比の数値。
今回の研究では、野菜や果物の摂取量が最も少ないグループのうつ病の発症オッズを分母に、そのほかのグループのうつ病の発症オッズを分子にした場合のオッズの比を算出している。