新たにチームのリーダーに任命されたので、張り切ってプロジェクトをスタートさせよう! と思ったら、メンバーは日々の業務に追われて疲れ切っていて、1日を終えるだけで精一杯。チームのモチベーションが上がらずに、1人で空回りしてしまった…。
このような経験をしたことがある方は少なくないでしょう。今回は、そんなチームを元気いっぱいにするヒントを与えてくれる「Fish!哲学」をご紹介します。【山口宰】
◆ チームは生きもの
介護現場のリーダーとして仕事をしていると、チームの様々な状況に直面することがあります。メンバー全員がやる気に満ち溢れていて、チームが一丸となって新しいことにチャレンジできる、という状態のときもあれば、みんなのモチベーションが低く、何をやろうとしても上手くいかない、というときもあるでしょう。
私たちひとりひとりの人間と同じように、チームも生きものなのです。調子のよいときもあれば、悪いときもあります。
リーダーが1人で理想を掲げて旗を振ってメンバーを導こうとしても、チームがひとつになっていなければ空回りしてしまいます。リーダーとメンバーの心が離れてしまうと、コミュニケーションがうまくいかなくなったり、指示が通らなくなったりして、チームはバラバラになってしまうでしょう。
そうした状況をなんとか打開しようとリーダーが頑張れば頑張るほど、メンバーとの溝は深くなるという悪循環が待ち受けています。チームがこのような状態だと、よいケアやサービスを提供することはできなくなってしまいます。
◆「フィッシュ!鮮度100%ぴちぴちオフィスのつくり方」
そんなチームに活気を与え、前向きに生まれ変わらせることができる哲学として世界中で注目を集めているのが、アメリカのシアトルにある「パイク・プレイス・マーケット」で生まれた「Fish!哲学」です。Google、Microsoft、Apple、ユニバーサル・スタジオなど、100ヵ国以上の名だたる企業で社員研修に採用されてきたほか、日本でも多くの企業や病院、介護施設で取り入れられてきました。
この哲学を世界中に広めたのが、「フィッシュ!」という1冊の物語でした(※)。
※「フィッシュ!アップデート版 − 鮮度100%びちびちオフィスのつくり方」スティーヴン・C・ランディン、ハリー・ポール&ジョン・クリステンセン (2021)早川書房
大手金融機関の事業部門の管理者として採用されたメアリー・ジェーンが配属されたのは、「鈍い」「不満のかたまり」「不愉快」「不毛」「後ろ向き」といった言葉で形容される、3階にある事業部門。彼女は過去2年間で3人目の部長となりました。
このチームでどうやって仕事をしていけばいいのか − 。途方に暮れる彼女がふらっと立ち寄ったパイク・プレイス・マーケットは、多くの人が集まり活気に溢れる場所でした。市場全体がいきいきとしていて、みんなが最高の笑顔で楽しそうに働いていました。
でも、パイク・プレイス・マーケットも最初から世界に知られる魚市場だったわけではありません。かつては活気がなく、人も集まらないひどい場所でした。
それを生まれ変わらせたのが「Fish!哲学」です。メアリー・ジェーンはここで学んだ4つの行動原理をもとに、自分のチームの改革を行い、ついには会社中の人が働きたがる、見違えるような素晴らしい部署を作り上げることに成功したのです。
◆ フィッシュ!4つの行動原理
では、4つの行動原理を順番に見ていきましょう。
【態度を選ぶ】
仕事そのものは選べなくても、どんなふうに仕事をするかは自分で選べる、ということ。
毎日が「つまらないな」「しんどいな」と思いながら仕事をするのと、「最高のサービスを提供しよう」という意気込みで仕事をするのとでは、同じことをしていてもその内容は大きく違ってくることでしょう。
仕事への態度を選ぶことができるのは、上司でも家族でもなくみなさん自身です。メンバーひとりひとりが前向きな気持ちをもって仕事に取り組むことができれば、きっと活気溢れるチームを作り上げられるはずです。
【遊ぶ】
仕事をしながら楽しみ、それをエネルギーとして創造力を高めていくこと。
パイク・プレイス・マーケットで魚を投げたり魚に話をさせたりしているように、みんなが楽しい気持ちになるような仕事の仕方はきっと見つかるはずです。そうなれば、よりよいケアを行うことが可能になり、毎日あっという間に時間が過ぎていくことでしょう。そして、仕事が報酬を得るための手段ではなく、仕事自身が報酬になっていくのです。
【人を喜ばせる】
スタッフだけではなく、利用者さんたちと一緒に楽しむということ。
みんなを巻き込んでいくことで、チームやユニットに活気と和気あいあいとした雰囲気を作り出すことが可能になります。他人に奉仕することによって生まれた満足感は、健全なよい気分をもたらし、さらなるエネルギーを生み出す原動力となります。
【注意を向ける】
仕事に全力を注ぎ、自分たちがほかの人たちから何を求められているのかということに、気を配ること。
介護の現場において、利用者さんの気分や体調のちょっとした変化に常に敏感になっているように、スタッフの変化にも注意を向けることが大切です。そうすれば、相手に対して思いやりを持つことができるようになるだけでなく、何か問題が起きそうなとき、適切なタイミングで対処することが可能になるでしょう。
◆「FISH!哲学」を介護の現場に生かす
「FISH!哲学」は、決して仕事をしていくためのルールやマニュアルではありません。リーダーがこの考え方に基づいて仕事をすることによって、自分自身にも、周りとの人間関係にも前向きな変化が現れてきます。
前向きな空気はメンバーの間に徐々に広がっていき、活気がなくネガティブな雰囲気が漂うチームは、常にチャレンジ精神を忘れない、素晴らしいチームに生まれ変わることでしょう。
特に介護の現場では、実際にケアに携わるスタッフひとりひとりのモチベーションや仕事に対する姿勢が、ケアやサービスの質に大きな影響を与えます。活気に溢れたチームを作るために、まずは1日の仕事を始めるときに、「今日を素晴らしい日にしよう!」と「態度を選ぶ」ところから始めてみてはいかがでしょうか。