2022年11月7日 【スウェーデン超入門】200年以上戦争なし どのように福祉大国となったのか=山口宰

Hej!(ヘイ!=こんにちは!)

私は兵庫県神戸市で社会福祉法人を運営しながら、大学で認知症ケアや〝介護とテクノロジー〟に関する研究を行っています。留学をしていた20年前から、研究やスタッフの研修のために毎年のようにスウェーデンを訪れてきましたが、近年はコロナ禍でその機会を失っていました。このたび、3年ぶりにスウェーデンを調査のために訪問してきましたので、現地の最新情報を含め、スウェーデンという国とその高齢者福祉についてご紹介していきます。【山口宰】

 

◆ スウェーデンってどんな国?

スウェーデン・ストックホルム

ノーベル賞、IKEA、H&M、ボルボ、バイキング、シュールストレミング(世界一〝臭い〟ニシンの缶詰)…。みなさんはスウェーデンと聞くと何を思い浮かべるでしょうか?

「福祉先進国」としてお馴染みのスウェーデンは、ヨーロッパの北部、スカンジナビア半島の東側に位置します。デンマーク、ノルウェー、フィンランド、アイスランドとともに、「北欧」と呼ばれる国のひとつです。

人口は約1050万人、面積は45万平方km(日本の約1.2倍)。現在の高齢化率は20.5%ですが、2000年に日本が追い抜くまでは、世界で最も高齢化の進んだ国でした。

「高福祉高負担」と言われるように、付加価値税(=VAT、日本の消費税に相当)は25%ですが、書籍や新聞、映画などは6%、食料品やレストラン、ホテルなどは12%と、軽減税率が適用されています。また、小学校から大学院まで学費は無料。子育てをしやすい環境は、高い合計特殊出生率(2019年:1.70)にも表れています。

移民の受け入れを積極的に行っていることでも有名で、人口に占める外国生まれの人の割合は19.74%(2020年)。今回の調査中でも、高齢者施設の空きユニットを利用してウクライナの人たちを受け入れる準備をしているところに遭遇しました。

主要産業は機械、化学、林業、IT。最近では、「世界で最もキャッシュレスの進んだ国」としても知られています。日本の10分の1以下の人口のスウェーデンですが、高い国際競争力を持ち、ヨーロッパだけでなく、世界の中で存在感を示しています。

「社会政策の実験室」と言われるように、常に未来志向のイノベーションを起こしながら、誰もが住みやすい国を目指してきました。高齢者福祉に目を向けても、認知症高齢者グループホームやユニットケアなど、日本にも大きな影響を与えています。日本の福祉についてスウェーデンの存在抜きに語ることはできないと言えるでしょう。

 

◆ 貧しい農業国だった

ストックホルム中央駅(筆者撮影)

社会政策学者G.エスピン=アンデルセンは、福祉国家を〝国家〟と〝市場〟と〝家族〟の関係性から分析した「福祉レジーム論」において、スウェーデンを国家の役割が大きく、現役世代にも高齢者にも普遍的な福祉を目指す「社会民主主義レジーム」に位置付けました。ではスウェーデンはどのようにして、現在のような福祉国家になっていったのでしょうか。

19世紀、スウェーデンは過酷な自然環境の中で苦しむ貧しい農業国でした。1846~1930年には、当時の人口の約4分の1にあたる130万人が新天地を求め、アメリカ・カナダへ移住したという記録が残っています。

しかし、工業化の波が押し寄せるとともに、当時の主幹産業であった林業や鉱業などの工場で働く人たちが増えていきました。この時代に、労働組合が発達したことも指摘されています。

1928年、スウェーデン社会民主労働党(社民党)のペール・アルビン・ハンソンは、「国民の家(folkhemmet)」の設立を提唱しました。この概念はやがて階級がない平等な社会のビジョンとして、人々の心をつかみ、社民党は1932年から44年間にわたる長期政権を築きました。この中で、普遍主義的福祉国家の形成に向けた合意が作り上げられ、包括的福祉システムや平和的・協調的労働市場、そして合意形成優先の政治運営を特徴とする「スウェーデン・モデル」が生まれました。

スウェーデンの国の動物ヘラジカ(筆者撮影)

また、戦争との関係性にも注目する必要があります。

今年、スウェーデンがフィンランドとともにNATOに加盟するというニュースは、日本でも大きく取り上げられました。実はスウェーデンは1814年以降、200年以上も対外戦争をせず、中立政策を貫いてきました。第2次世界大戦後、ヨーロッパの復興需要も相まって社会保障に力を入れる余力があったということも、スウェーデンを高福祉国家にする原動力となりました。

このような時代背景のもと、1960年代頃からノーマライゼーションの理念に基づく高齢者福祉・障害者福祉が充実していったのでした(詳しい内容は次回お伝えします)。

 

◆ 新型コロナウイルスの対策は?

2020年に入って世界中に感染が拡大した新型コロナウイルス。厳しいロックダウンを実施したヨーロッパの国々と比べ、スウェーデンは事態の長期化を見据え、社会経済活動を継続させる持続可能な対策を取りました。

このことが、「スウェーデンの集団免疫戦略」として各国で報道され、あたかもスウェーデンでは感染拡大を容認しているかのような印象を与えました。ですが、現実には、出入国の制限、イベントの規制、飲食店の規制、高齢者施設の立ち入り禁止、公共交通機関内でのマスク着用の推奨など、様々な措置が講じられていました。

しかし、2020年3月から4月の第1波、10月から翌年1月までの第2波においては、特に高齢者施設で感染が拡大しました。2020年12月当時の死亡者約7500名のうち、90%が70歳以上、約半数が高齢者施設の入居者でした。この理由として、介護現場における規制・対策の不十分さ、医療を担うレギオン(県)と介護を担うコミューン(市)、民間企業との責任分担の曖昧さ、介護現場における慢性的な人員不足などが指摘されています。

今回の調査でも、高齢者施設でマスクや手袋などの準備が不足していたことや、感染した高齢者が施設で看取りになるところを家族の交渉で病院に入院させ一命を取りとめたケースなど、当時の混乱した状況を詳細に伺うことができました。その一方、クラスター発生時に施設間で機動的に職員の応援を出し合っていたことや、利用者の日常生活を守るために通所系サービスの早期再開に向けて働きかけたことなど、前向きな情報も数多く聞かれました。

コロナ禍のスウェーデンと日本の経験を比較・分析することは、今後の感染拡大防止に向けた戦略を議論するうえでとても有益です。これからも研究を続けていきたいと思います。

新型コロナ対応の来訪者名簿やアルコールなど(筆者撮影)

高齢者施設の居室(筆者撮影)

高齢者施設からの眺望(筆者撮影)

 

次回に続く。

(次回は2023年1月10日の記事になります)


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