2022年12月16日 「研究の政治問題化」に半数以上が懸念 エルゼビアが「科学者への信頼」で国際調査

研究出版と情報分析をけん引するグローバル企業であるエルゼビアは、〝科学研究者への信頼〟に関するグローバル調査レポートをこのほど公表した。2019年後半頃に始まった世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大(パンデミック)は、わが国では〝コロナ禍〟と呼ばれているが、今回のレポートは、科学研究に対するコロナ禍の影響を調べた初のグローバル調査結果。この3年余りで、多くの科学者からさまざまな研究成果が発表されたなか、世間の関心は高まるものの、社会の理解はそれほど向上しなかったことが明らかとなった。さらに、研究者の半数以上がソーシャルメディアで取り上げられることにより、「過度な単純化」や「研究の政治問題化」することへの懸念を表明した。

 

途上国で拡がる研究資金の不平等感

この調査は、わが国も含めた世界各地の3000名を超える科学者、学者、研究者を対象に行った。コロナ禍により、研究成果がメディアに大きく取り扱われることが多くなり、研究者に対する注目をこれまで以上に高まった。一方で、研究者に対する社会の目が厳しくなっている。こうした現状を踏まえて、研究の実施や報告のあり方などへの影響を分析した。

調査回答者の74%が、研究の信頼性を決める最も重要な指標は「査読付きジャーナルへの掲載」と答えた。また、過半数の52%がパンデミックによって研究結果を査読前の早い段階で公表することの重要性が高まったと感じているという。特に女性や若手研究者、グローバルサウス(いわゆる途上国)の国々の研究者は、パンデミックによって自身の研究分野での資金源へのアクセスに関する不平等が拡大したと危機感を持っている。

 

誹謗中傷、3分の1が経験

科学者や研究実施方法に対して社会の関心が高まり、ソーシャルメディアで取り上げられることも増えた。こうしたなか、回答した研究者の過半数が、「過度な単純化」(52%)や「研究の政治問題化」(56%)に懸念を示した。その結果として、多くの研究者が、「ソーシャルメディアで自身の研究成果を適切に伝えられる自信があまりない」と答えた。

ソーシャルメディアで研究成果を伝えることについて、「非常に自信がある」との回答者は18%に達しなかった。また、オンラインで研究を投稿した後に誹謗中傷に遭ったことがある、あるいは親しい同僚が誹謗中傷に遭ったと答えた研究者は、回答者全体の約3分の1に相当する32%にのぼった。

さらに、回答者の半数(51%)が、オンラインでの議論に参加する責任を感じていると回答した。また、69%が、質の高い研究と偽情報・誤情報を分ける重要性がコロナ禍で高まったとしている。実際に偽情報・誤情報はここ数年世界的な課題となっており、回答した研究者の4分の1近くの23%が、偽情報・誤情報を公の場で対処することは自分たちが社会で果たすべき主要な責任の一つであると認識している。パンデミック前は、この数値はわずか16%だった。

 

2割が「SNSでのコミュ不足」実感

一方で、国内のみに目を向けると、回答者の半数は、パンデミックによって研究テーマに対する資金提要者の影響力が増したと感じているとした。わが国の研究者の50%以上が、パンデミックにより研究全般に対する社会の関心や注目度が高まったと感じていると答えた。38%の研究者が、パンデミックがきっかけで研究実施方法に対する監視の目が厳しくなるとの見解を示した。

また、今回の国内回答者は、オンラインやソーシャルメディアを通じた研究議論は自分の評価を高める上でも重要と考えるものの、20%がソーシャルメディアでのコミュニケーション不足を自覚している。


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