2021年12月6日 「治療方針の意思表示できた」1割 医歯大教授らがコロナ呼吸不全者の状態調査

新型コロナウイルス感染症による呼吸不全に対する治療を受けた患者のなかで、治療方針に関して明確に意思表示ができたのは約1割で、ほとんどのケースで患者の治療方針の決定を家族が担っていたことが明らかとなった。患者に代わり治療方針に関する意思決定をした家族の半数は、患者の意向が分からない状態で判断しなければならない状況であったという。一方で、感染者急増による医療資源不足下での体外式膜型人工肺(ECMO)の優先順位付け「ECMOトリアージ」の考え方については、すべての患者と家族から特定の条件下で支持が得られ得る結果となった。

この調査を行ったのは、東京医科歯科大学生命倫理研究センターの吉田雅幸教授、甲畑宏子講師の研究グループ。同大病院に入院した新型コロナ重症呼吸不全患者と家族を対象として、①治療に関する説明と同意(インフォームド・コンセント)の実態と、②医療資源不足化でのECMOトリアージに対する患者・家族の意見を明らかにするため、昨年12月から今年3月に質問紙調査を行い、患者17名、家族14名から回答を得た。

この調査結果は、11月27日・28日の両日開催された日本生命倫理学会第33回年次大会で報告された。

 

説明と同意の現状確認の第一歩

新型コロナによって、人工呼吸器やECMOの使用が医学的に必要になったときに患者や家族が納得した形で意思決定できることは、コロナ禍での医療の信頼性維持のために重要。この信頼関係を実現させるためには、治療開始時に医療者からの十分な説明と、理解に基づく納得した意思決定が求められる。

しかしながら感染症対策として制限された環境下で行われる説明と同意にはさまざまな困難が予想される。そこで、東京医歯大病院では新型コロナ患者を延べ500人以上(11月1日現在)受け入れてきた実績をもとに、新型コロナ呼吸不全治療に関する説明と同意の現状を明らかにするとともに、医療資源のトリアージに関する当事者の意見を聞く必要があると考え、その第一歩として調査を実施した。

同病院入院時に医師から説明を受けた人について調査した結果、搬送時、すでに患者の意識レベルは低く、家族だけで説明を受けたケースは31例中17例と半数以上に及んだ。この結果から、新型コロナ呼吸不全が重症化した場合には、今後の治療方針に関する重要な説明を患者自身が聞くことができない状態となる可能性が高く、家族のみが説明を受ける状況が想定される。

また、治療に対する説明を受けた家族13名のうち12名が明確に意思表示をしていたが、意思表示内容は「延命治療を望まなかった」が5例と約4割を占めた。この5例について、回答者である家族に患者の年齢、患者自身の意向を確認したところ、患者の年齢層は50~90歳代と広く、患者自身も延命治療を望んでいないケースが3例あったが、残り2例については患者の意向は不明な状態だった。

研究グループでは、家族の意向と患者の意向の一致率に関しても調査した。治療に関する意思表示を行った家族12名について、家族の意向と患者の意向が一致していた例は4例と、全体の約3割だったが、患者自身の意向がわからない状態で意思表示をした例が7例と最も多く、約6割に及んだ。つまり、家族の約6割は、患者の意向が分からない状況で治療方針の決定をしなければならない状況だったという。

さらに、ECMOトリアージに対しては、条件付きを含め、回答者全員が「納得できる」との回答だった。条件については、「患者の年齢」や「ECMOが不足していること」については、患者・家族ともに重要と回答したが、それ以外の項目では、患者と家族で重要と考える条件に違いがみられた。研究グループでは、この結果から、ECMOトリアージについては、特定の条件下であれば、当事者の支持が得られる可能性が示唆されたとしている。


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