経済産業省では、地域×スポーツクラブ産業研究会(座長:間野義之・早稲田大学スポーツビジネス研究所長)での1年半にわたる議論の内容、及び第1次提言公表(昨年6月)後に全国10か所で行ったフィージビリティスタディ事業からの成果を踏まえ、最終提言として「未来のブカツ」ビジョンを取りまとめた。
ビジョンでは「学校部活動の地域移行」という政策を自己目的化することなく、U15/U18世代のスポーツ環境が抱える課題の解決に向けて、スポーツの社会システム全体の再デザインを提案。その上で、U15/U18世代に対する理想的なスポーツ環境とはどういった者なのかを整理し、それを実現する社会システムの再構築に向けて、①大会デザインの再設計、②教員の兼業環境整備、③前提として、学校部活動の地域移行の見通しとの制度的位置づけの早期明確化―など5つの施策群を短期間にまとめて整備することの必要性を提言している。
部活をカタカナにしたのは、さまざまな運営主体が提供する地域のスポーツクラブ活動とし、従来の学校部活動とは異なる多様性に富んだ姿をイメージしたものだとしている。
スポーツ産業を所管し、それらを振興する立場にある経産省では、文部科学省が2020年9月に示した「令和5年度から休日の部活動を段階的に地域移行する」との方向性に呼応し、さまざまな民間スポーツクラブが収益性・持続可能性を高めながら学校部活動の地域移行の受け皿として機能するための事業環境問題を考えるべく、2020年10月に「地域×スポーツクラブ産業研究会」を立ち上げ検討を始め、2021年6月には第1次提言を公表した。その後、全国10か所でFS事業を実施し、保護者負担の程度や採算が合う事業運営のあり方、場所や指導者の確保、合意形成の在り方などに実現可能性を検証した。
ビジョンでは、FS事業全体から浮き彫りになった4つの構造的な課題として、実践的な面での1)自然体では「不採算」、採算を追えば「家計所得による機会格差」に、2)活動場所・移動手段・コーチング機会の確保に向けた「柔軟な対応」、また、組織文化的な面からの3)ファースト・ペンギンは避けたい「地方自治体の心理」への対応、4)合意に向けた関係者間での「議論のラリー」が止まりやすい―を挙げた。
受益者負担の許容度は、月2~3千円が多数だが、事業者側が部活動指導のみでは不採算で、新たな収入源の模索が必要。また、現状では、全学校/競技の地域移行を受け入れられるような受け皿は存在しない。実効性のある教員の兼業兼職環境や特に地方都市における移動手段問題の解決が求められている。
地方自治体では、課題認識している場合も「国(文科省)の明確で具体的なメッセージがないと動きをとりづらい」「他の自治体の動きを見てから決めたい」という結論が多い。そもそも「行政サービスの改悪」に映りかねないイシューであることから、「期待する保護者の反応」「声の大きい教員の反対」を気にして慎重になりがちだという。
学校にとって、部活動は「あって当たり前」のものであり、それを変えようという際に「問い直し」を避けてしまい、議論が途中で止まる現象が多発。多くの教員にとって部活動の存在は大きい中、思い入れをリスペクトしつつも、「そもそも論」から問い直すための「議論のラリーの材料」を現場に届けていくことが必要だと訴えている。