地球温暖化の影響で暑すぎる日や寒すぎる日が増えることで、人々の健康に悪い影響が及ぶ可能性があるが、妊娠中の母親や新生児への影響は十分にわかっていない。東京医科歯科大学の研究グループは、妊娠中に母親が寒さや暑さにさらされると、新生児が妊娠37週より早く生まれる「早産」のリスクが上がることを、10年間190万件の全国規模の出産データから明らかにした。特に、早く生まれる新生児のうち約2.3%は寒い気温によって早く生まれていることがわかったという。研究グループでは、妊娠中の女性が暑すぎたり寒すぎたりする気温にさらされないようにすることが、早産を予防するための有効な対策になる可能性があるとしている。
この調査研究を行ったのは、東京医歯大大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授、西村久明助教、寺田周平大学院生と、生殖機能協関学分野の宮坂尚幸教授らの研究グループ。研究成果は、国際科学誌「BJOG: An International Journal of Obstetrics & Gynaecology(ビージェーオージー)」オンライン版で発表された。
若い母親や後期早産で影響顕著に
早産(新生児が妊娠37週より早く生まれること)は、5歳未満の子どもたちの最も多い死亡原因であり、世界的に深刻な問題となっている。また、地球温暖化の影響で暑すぎたり寒すぎたりする日が増えることは、人々の健康に悪い影響を及ぼすことがわかっているが、早産にどのように影響するかはよくわかっていなかった。
日本は、全国どこでもほぼ同じような周産期医療を受けることができ、かつ国土が南北に長く四季がはっきりしているため気温の変動がさまざま。この特徴をうまく利用し、妊娠中の母親が寒さや暑さにさらされると早産が増えるかどうか明らかにするために、この研究が行われた。
この研究では、2020年までの10年間にわたり、日本の46都道府県(沖縄県を除く)を対象に、一日の平均気温と早産の発生件数の関連を調べた。調査には、日本産科婦人科学会の周産期登録データベースと気象庁の気象データを活用。気温の影響が現れるまでの時間差を考慮した。その結果、妊娠中の母親が寒さや暑さにさらされると、新生児が早産になるリスクが高くなることがわかった。
具体的には、「一日の平均気温が0.8℃」の場合は15%、「一日の平均気温が30.2℃」のケースでは8%それぞれ早産リスクが増加した。
今回調査したなかに含まれる早産の赤ちゃん21万人のうち約5000人は、妊娠中に母親が16℃未満の寒さにさらされたことにより早く生まれたと考えられ、それは早産全体の2.3%に及んだ。
また、寒さや暑さによる早産への影響は、35歳未満の若い母親や、妊娠34週以降の後期早産で、より強くみられたという。
予防行動促すことが有効
研究グループでは、「将来的には、例えば熱中症警戒アラートのように、早産の予防対策として妊娠期の女性に対して気温に関する情報を提供し、暑すぎたり寒すぎたりする日は外出を控えるなどの予防行動を促すことが有効かもしれない」との見方を示している。
地球温暖化の影響を一層身近に感じるようになるなか、極端な暑さや寒さが健康に与える影響を最小限にするために、医療機関は一層の取り組みが求められる。今回の調査結果を契機として、妊娠中の母親や新生児の健康を守り、社会全体の健康促進につながることが期待される。